『石田くん、お願い事決まった?』


短冊を前に、腕組みしながら瞑想に耽る石田くん。邪魔したらアカンかと思いつつも、思わず声かけてもうた。


「大体は決まっとる、名字はんはどないや?」
『うーん、ぎょうさんあり過ぎて悩んどる』
「ははは、欲張りさんやなぁ」


何だか意外な気がする。石田くんに、天にお願いするようなことがあるなんて。こない言い方失礼かもしれんけど、石田くんってあんまり欲望とかなさそうやし。


『ちなみに、何お願いするん?』
「名字はん、願い事は人に言うと叶わななるんやで」
「えー、意地悪やー」


これも意外、石田くんなら他の誰よりも素直に教えてくれそうな気がしててんけど。短冊を覗き見てもまだ書いてへんから、石田くんのお願い事なんて全然想像もつかん。


『ほな私が当てたら教えてくれる?』
「ええで、当てられたらな」


石田くんの自信がすごい。絶対に私には当てられへん、て言うてるみたいな。こない勝ち気な石田くん、レアな気ぃする。


『“弟くんと一緒に暮らせますように”?』
「ちゃうなぁ」
『んー、じゃあ“波動球佰玖式ができますように”!』
「はは、それもええけどな」


あかん、全く見当もつかへん。当の石田くんは、目の前で余裕綽々なご様子なんがまた悔しい。


『あ、じゃあ“恋人ができますように”とか!』


あんまりに思いつかんかったから、石田くんらしないことを言うてみた。

‥ら、今までちぃとも余裕な表情変えへんかった石田くんが、ホンの少しだけ動揺を見せた。案外、ええ線いっとるんちゃうかな?


「ええとこついたなぁ、名前はん」
『けど正解ちゃうねんなぁ‥』
「今のも、ヒントやねんけどな」
『え、今のって、えっ?』


せっかく答えに近付いたと思うたら、石田くんの混乱させ作戦にまんまとひっかかってもうた。

“今の”っちゅうヒントとやらを一生懸命思い出す。確か石田くんが私の答えを褒めてん、ええとこついたって‥そんで‥。‥あれ?そういえば。


『‥名前、さっき、』
「ん、よう気付いたなぁ」


いつの間に書いたんか、さっきまで白紙やった短冊に流れるような綺麗な字で。そこには、彼らしからんお願い事が書かれとった。


「ワシの願いが叶うかどうかは、名前はん次第やで」
『そんなん‥今すぐ叶えたるよ、銀くん』
「はは、おおきに」


満足気に笑う銀くんが笹に結びつけた短冊が、窓から通り抜ける風にゆらゆら揺れとった。


“名前はんが、他の皆と同じように、下の名前で呼んでくれますように”










銀くんのお願い事成就!

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