『やっぱりココやった‥』


笹の飾り付けやら短冊作りでわいわい賑わう部室とは正反対の、静かなテニスコート。部活後の整備も終わって誰も居らへんそこに、いつも奴は居る。


「お、おいでなはりまっせ」


まるで、私がここに来るんが分かっとったみたいに笑う千里。部活のジャージ姿のまんま、コート入口の門に凭れながら座っとる。

こないとこで暑ないのかな‥と思たけど、あの人数が居る部室も然程変わらんことに今気付いた。おとなしく、千里の隣に腰を下ろす。


「どぎゃんしたとな?名前」
『ん、これ渡しにきてん』
「‥こら、なんかいた?」
『短冊、そろそろ七夕やんか』


部室から持参した紙切れをヒラヒラと見せたら、やっと合点がいったようやった。ついでにこっそりくすねてきたペンも合わせて、千里に渡す。

当の本人は、渡した短冊を見つめながら何やら考えとる。‥いや、何か考えとるような考えてへんような、よう分からん顔言うた方が合っとるかも。


「‥うーん、ちっとん思いつかんばい」
『千里、ホンマに考えとる?』
「名前ひどかね、そぎゃんこつなかばいた」
『ホンマかなぁ‥』


疑りを込めた視線を向けても、千里は飄々と笑うだけ。短冊を書こうともせんと、指先で器用にペンを回して見せよる。


「‥名前、」
『ん?何?』
「心配しなすな、大丈夫だけん」


千里が穏やかな笑顔で言うその言葉に、心を読まれてもうたかと思うた。それとも、そないに私の顔に心の内が出てもうてたんかもしれん。

最近、千里の目の調子が良うないらしいって、蔵ノ介が言うてた。七夕の願い事に効き目なんてあらへんかもしれんけど、少しくらい信じたい気もしてまう。


『みんな頼りにしてんねんで、千里のこと』
「はは、そりゃあえらいこつばい」
『せやから、‥無理せんといてね』


千里はすぐ笑うて誤魔化そうとするけど、それでも誤魔化しきれてへんから質が悪い。せやから、言いたいことはちゃんと伝えへんとアカンて、最近気付いてん。


「名前、ありがとう」
『え?何もしてへんけど』
「そぎゃんこつなかよ、十分たい」


そない言いながら差し出された短冊には、いつの間に書いたんか小さな文字が並んどった。

けど、その願い事の意味を聞こうとした時には、もう千里はコートから姿を消しとって、私の胸の奥深くで何かが騒いで落ち着かんかった。





“優しかマネージャーのために、自分の出来ることを実行できますように”










千里の決意と、予感

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