『なぁ、光』


帰り道、隣で音楽聴いとる光に目配せしたら渋々イヤホンを取った。

大体、彼女と帰っとる時に「歌詞が思い出せん」とか言うて一人で音楽聞き始めるってどないやねん。もうちょい構ってくれてもええんちゃうかな。


「何すか、先輩」


面倒臭そうにプレーヤーの本体を操作する光。手元ばっか見て、全然こっち見てくれへん。先輩って呼んどる割に先輩扱いしてくれへんのは、もう慣れてもうた。


『うち、明日死ぬねん』
「‥‥はぁ?」


あ、ようやっと光がこっち見てくれた。怪訝そうなその顔はうちの好きな顔ちゃうけど、興味引けたっちゅうことでええか。


「死因は?」
『えっと‥心臓マヒとか?』
「デスノートにでも書かれたんスか、ドンマイっすわ」
『誰かの恨み買うてもうたみたい‥て、ちょお待ち!』


彼女が明日死ぬ言うてんのに、顔色一つ変えんとドンマイで終わらすってどういうことやねん。もうちょい何かあるんちゃうん。驚くとか。


『言うとくけど、ウソやからな?』
「ハナから信じる方がおかしいわ」
『‥けど、分からへんやん』


昨日テレビの特集でやっててん、事故でいきなり愛する人を亡くしてもうたっちゅう話。明日何が起こるかなんて分からん、せやから。


『後悔せんように、光に毎日感謝伝えとこ思て』


昨日はCD貸してくれて、今日は一緒に帰ってくれて。うちの生活には光が不可欠で、光のおかげで元気に過ごせんねん。

次の瞬間、光が溜め息ついて足を止めたから、うちもつられて止まる。


「アホなこと言わんといてください」
『アホってなぁ、うちかて真面目に‥っ』


いきなり光が抱き締めてきよったから、思わず言葉が詰まる。いつもならうちが抱き着こうとしても全身から近寄んなオーラ出しよるくせに、急すぎてビックリするっちゅうねん。


「テレビの影響受けすぎやろ」
『せ、せやかて‥』
「大体アンタ事故で死ぬようなタマちゃいますやん」


いやまぁ、そらそうかもしれへんけど‥ってコラ。思わずノリ突っ込みしてまうとこやったやん。

けど、小憎たらしい言葉とは裏腹に、頭を撫でる光の手つきがめっちゃ優しい。それが嬉しゅうて顔はニヤけてまうのに、目からは涙が出てくる。何やこれ。


「ま‥先輩にしちゃ、ええ心がけっすわ」
『何で上から目線やねん‥』
「しゃーないから、ご褒美あげたります」


人の言うこと全然聞いてへんのはいつもの事やけど、光の口からご褒美っちゅう単語が出るなんて珍しい。そんなんで怒る気も失せて期待してまううちも相当やけど。


「いつも、おおきに」


気付いたらおでこをくっ付けられて、めっちゃ近くで微笑んどる光。その言葉を聞いて、また涙が溢れた。










たまには、言うたろか
(光、もっかい言うて!)(追加料金とりますよ)





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