暇で堪らん数学の授業中。うちの前に座る謙也は、得意やからって数学だけは真面目に受けよる。何やめっちゃ腹立つ。


『なぁなぁ謙也ー』
「何やねん、真面目に受けなアカンやろが」


その言葉そっくりそのまま謙也に返したろか。何やねん国語の時間とか後ろ向いてちょっかい出してきよるくせに。謙也のおかげでうちまで国語の先生に目ぇつけられてんでホンマ。


『謙也、コレ分からん』
「どれや?しゃあないなぁ」
『問3の(2)』
「あぁ、お前(1)の答え間違うとるわ」


それ使わな解けんからなぁ、なんて謙也がしゃあしゃあと言う。間違うとる、やのうて答えを教えてくれてもええんちゃうかな。次うち当たんねんココ。

とか思うたら案の定指された。眼鏡のハゲ頭がこっち見とる!


『え〜っと‥‥』
「15平方センチメートル」
『え?』
「そこの答えや」


いきなり振り返ってボソっと呟いた謙也の台詞を反芻したら、ハゲ頭が頷いた。何や謙也ええとこあるやん。

すぐ前を向き直してもうたから謙也にお礼言い忘れてもうた。目の前にあるのは、謙也の広い背中。いつからこない大きかったんやろ。


『謙也、』
「お礼は青汁でええでー」
『そんなんどこに売ってんねん』
「そりゃ自分で探しや」


ああもう、そうやのうて。うちが言いたいんはそういうんちゃうねん。せやけど、いざ言お思うたら緊張してまう。何なん、うちの心臓。

しゃあないから、謙也の背中に伝えたい言葉を綴る。一画めで謙也がビクッとしよったけど気にしない。


「な、何やいきなり!」
『何て書いたか当ててなー』


この5文字が謙也に届くように大きくゆっくり書いたった。

今更顔見て言うんは照れるけど、たまには言うてもええかな?『ありがとう』て。










5文字に想いを込めて
("おいがつお"て何やねん!)(‥勝手に食ってろアホ)




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