(あ、雨降りそう)



水曜日、放課後、昇降口

思った途端、頬を掠める雨粒に溜め息一つ

今日は朝からどんより曇り空



「お、降ってきたなぁ」



眼鏡越しに空を見上げて、忍足が呟く

その言葉が私に向けたものなのか

はたまた彼の独り言なのか

測りきれないまま、しばらく無言で一緒に空を見上げてみることにした



「名字、傘、持っとる?」



忍足が空から私へ視線を移す、その瞬間の横顔にドキッとしたのは秘密

流し目は反則だと思うよホント



『持ってるよ、ほら』



その照れ隠しに

鞄の中の折りたたみ傘を少し大袈裟に取り出して忍足に見せてみた



「‥‥‥‥‥」

『‥‥‥‥‥』



昇降口の屋根の下

特に話すことを思いつけないまま、沈黙に身を委ねる



アスファルトに雨粒が吸い込まれていくのを見るのも飽きてきたところで

傘は?

そう言おうとした瞬間、忍足が口を開いた



『名字、俺のこと待っとったやろ』

「‥‥‥!!」



眼鏡の向こうには、にやりと笑う瞳

私は何も言い返せないまま、傘を開いた


(だって)

(忍足傘持ってないって言ってたから)



そんな私の気持ちも見透かすように忍足は私の傘を取り、差し始めた

眼鏡越しの瞳が、私に向けて優しく微笑んだ


















(ほな、帰ろうか)



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