『おまじない、かけてあげる』



そんなの、嘘だって分かってる

分かっていても、俺はされるがまま

名前の手に、いとも簡単に身を委ねるんだ



「おまじない、って‥なんの?」

『終わったら分かる、かも』

「なに、"かも"って」



俺が笑うと、ちょっと名前の頬が膨れて

それさえ小さなおまじないみたいだ、なんて思う

だって、俺の言葉で名前の表情が変わるから

逆に俺が名前におまじない、かけたみたい



『いいから、ジロー目瞑って』

「寝ちゃうかもよ?」

『んー‥それは、困る』



今度ははっきりとした口調で、名前が言った

言われるままに目を閉じても、名前を感じられるから不思議

それにしても、名前がおまじないなんて

信じてるとは思わなかったから、なんか意外



「‥ねぇ、まだー?」

『も、もうちょっと‥!』



待ってても一向に動く気配がなくて

でも、今の声はさっきより近くから聞こえてきた

そろそろ、何かするのかもしれない

さっきより少しだけ瞼に力を入れて待ってみる



『‥‥よし、終わり』

「‥、ん?」



満足気な名前の声が聞こえた、けど

意外にあっさり、というより何も実感ない

恐る恐る目を開けてみても

名前はさっきと変わらず、俺の隣に座ってるだけ



「何した?」

『‥だから、おまじない』

「何もしてないっしょ」

『え、‥気付かなかった?』



それは困るなぁ、って名前は苦笑い

名前の様子を見ると、おまじないは失敗したみたい

そもそも、おまじないってそんなにすぐ効果が出るもんじゃないけど

あからさまにしょんぼりされると、気になって仕方ない



「名前、もう一回やって?」

『え!?無理無理!』

「何で?」

『何でって、‥でもなぁ‥』

「お願いお願い!気になるC!」


俺が両手を合わせて言えば、名前はまた苦笑い

それから『しょーがないなぁ』って一つ溜め息をついて

もう一回、俺に目を瞑るように言った



「名前、早くー」

『もう‥、ジローはせっかちなんだから』



目を瞑って急かしてるけど

実は、バレないように少しだけ薄目気味

名前がどんなおまじないするのか見てみたいんだ



『‥じゃあ、行くよ?』

「いつでもどーぞ」



名前の心の準備も整ったみたい

俺の隣から正面に移動したと思えば

名前の顔がゆっくりと近付いてきて、おでこに小さなキスが一つ

一瞬すぎて、触れたのかさえ危ういくらい



「名前、なんのおまじない?」

『ジローが、私のこと好きになりますようにって』




やりきった、というような名前の表情

さっきよりも少し、赤みを帯びた頬っぺたに

今度はお返しに、俺が小さなキスを一つ



『え‥、ジロー‥?』

「俺も、名前が俺のこと好きになりますよーにって」



俺がそう言うと、名前の頬っぺたは真っ赤になって

俺のおまじないは大成功、かな















(ホントは必要ないけどね)



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