「え、名前、今日休みなの?」



昼休みの教室は、どこも一段とにぎやか

一緒にお昼食べようと思って、名前のクラスまで迎えにきたものの

当の、名前の姿がどこにも見当たらない

教室を見渡してると、代わりに出てきたのは他の女子



「名前なら、今日は休んでるよ」



‥と、のこと

俺がその子に「ありがとう」と伝えてると

廊下の向こうから、見慣れた姿

俺が今いちばん、会いたい姿じゃないけど



「ジロー、飯食わねーのか?」

「亮‥名前、今日休みなんだってー」

「へぇ‥、お前が暗い顔してる原因はそれか」



そう言って、俺の髪をくしゃくしゃ撫でる亮

暗い顔になるのも、しょうがないじゃん

名前が居ないってだけで、つまんないもん



「まぁ‥今日は諦めろよ、一緒に学食行こうぜ」

「‥うん、行く」



亮の背中に導かれて、食堂へと歩き出す

今、校内のどこにも名前が居ないって考えるだけで

学校生活が一気に色をなくしたみたいになる

偶然、廊下で会うことも

名前の笑い声を聞くことも

俺の学校生活には、欠かせないものなのに

それがないなんて、



「肉のない餃子だC‥」

「あ?何か言ったかジロー」

「‥何でもない」









いつの間にか、部活の時間

だけど俺の心は部活どころじゃなくて

とりあえず亮にだけ事情を話して、部活を休んだ

名前と同じクラスの岳人の情報によれば、名前は熱出して寝込んでるらしい

お見舞い、と名目をつけて名前の家に向かう



(とかいって、会いたいだけだけど)



お見舞いなんて言ってるけど、実際は俺のわがまま

ただ、一日に一度は名前の顔を見ないとイヤで

「結構具合悪かったらどうしよう」とか

「もしかしたら寝てるかも」とか

色々考えたけど、やっぱり会いたい気持ちが勝っただけ



(きっと名前なら、許してくれる)



これが甘えだって、十分分かってる

それでも名前は、きっと笑ってくれるから

そんな俺を優しく受け止めてくれるから

俺は、名前から離れられない



(まぁ、離れる気も離す気もないんだけどね)



途中のコンビニで、名前の好きなアイスとスポーツドリンクを買って

いざ、名前の家のインターホンを鳴らす

しばらく待ってると、ガチャ、と扉が開いた



「はいはい、‥あら、ジローくん?」

「あのっ、名前の、お見舞いにっ!」

「ありがとう、名前も喜ぶわ〜 どうぞ上がって?」

「お、お邪魔しますっ」



名前のお母さんは、とても美人さん

何回も会ったけど、未だに緊張する

促されるまま玄関を上がり、2階にある名前の部屋に向かう

ドアをノックすると、小さく『はーい』と返される

それは紛れもなく、聞きたかった名前の声

逸る気持ちをそのままに、勢いよくドアを開けた



『お母さん、そんな勢いよく‥って、え‥?』



ベッドから上体を起こし、こちらを見てる名前

名前のおでこには冷却シートが貼られていて

顔も赤くて、いかにも「熱出しました」って感じ

普段じゃ見れない名前の姿に、少し頬が緩む



「お見舞い、来ちゃった」

『来ちゃった、って‥部活は?』

「部活より名前の方が大事だC!」



リュックとコンビニの袋を床に置いて、ベッドの縁に腰かける

名前が布団から出ようとするのを制止して、名前の頭を撫でると

ちょっと居心地悪そうに、顔の半分まで布団を被った



「熱、どんくらい?」

『今は‥37度ちょっと』

「じゃあ、俺と大して変わんないね」

『ジローは平熱、高いから』



布団を握る名前の手を、上から包むように握る

言葉通り、名前の手は俺の手と同じくらいの温かさ

いつもは、名前の方が少し冷たくて気持ちいいけど

今は、温度が同じだからお互いの手が溶けて一つになってるみたい

なんだか、不思議でくすぐったい感じ



「マジ今日名前休みって聞いて、すっげービックリした」

『ごめんね、朝から病院行ったりしてメール送れなくて』

「明日は、来れる?」

『うん!家に居るのつまんないし、友達にも会いたいし、それに‥』



そこまで言うと、名前が不意に視線をそらした

だけど手は繋がれたまま、むしろ少し力が込められて

言葉の続きを催促するように名前の顔を覗き込むと、今度は完璧に布団に潜り込んだ



『‥に、‥‥いの‥』

「ん?何?」



布団の向こうで微かに聞こえる、名前の声

耳をくっつけて、すましてみる



『一日中ジローに会えないの、‥寂しいもん』



多分、今の名前の顔は真っ赤っかだろうな

想像したら、何だかすごく名前が愛しくなって

布団ごと、名前を抱き締めた

いつもより一回り大きい抱き心地に、思わず笑みが溢れる



『じ、ジロー‥?』

「名前、マジマジすっげー可愛い!」

『な、に言って‥』



何事か、とばかりに布団から顔を出す名前

ちょうど俺の目の前に、名前の顔があって

やっぱり、名前の顔は赤くなってる

その赤いほっぺたに、小さくキスしてみたら

名前は赤い顔のまま、くすぐったそうに肩をすくめた



『ジロー‥移っちゃうよ、風邪』

「全然いいC!だから‥」

『だから?』

「布団の中、いーれーて?」

『しょうがないなぁ‥』



布団の中は、名前の体温ですっかり温まっていて

その中で名前を抱き締めたら、また、一つになれた気がした



















(原形が、なくなるくらいに)



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