火曜日、2限と3限の間

ほんの10分しかない、その休み時間

それだけで、私は幸せになれる



(あ、きたきた)



窓際の、一番後ろの席

普段も居心地のいい場所だけど

この時間は、特別に好き



(今日は、何やるんだろ)



私の目が追いかけるのは、金色の髪

広いグラウンドを所狭しと動き回る

体操服姿で元気にはしゃぐジローの姿

バットの素振りのような動きをしているから

今日の体育は、野球のようだ



(ふふ、楽しそ)



ジローの得意科目だし

体育館よりも、広いグラウンドで思いっきり

動くのが好き、らしい

今日は久しぶりの、青空

ジローの笑顔につられたように

席を立ち、ベランダに出る



(まぶし‥‥)



手すりに掴まり、太陽を見上げる

自分の出番だ、と

主張するかのように照りつける太陽が

少し、ジローに似てる気がした



「名前ー!」



名前を呼ばれて目線を下げると

ジローが私に気付いたようで

手を大きく振りながら跳ねてる

その可愛い動作に、思わず笑みが零れる



「何してんのー?」

『んー‥、日光浴ー?』

「えー、俺もしたいー!」



ジローを見てました、なんて

流石に言えないから、咄嗟の言葉で切り抜ける

ジローは、さほど気にならなかったようで

ケラケラと、楽しそうな笑顔



「名前ー!」

『んー?なにー?』



再び、呼ばれた名前

ジローが前髪をかきあげながら

真っ直ぐ、私を見つめていた

心なしか、体温が上がったのは

太陽の熱のせい、だけじゃない



「今日も、俺、見てて!」



頑張るから!、と一言添えて

照れ笑いのまま、ジローは

グラウンドの向こうへと駆けていく



(今日「も」、って‥‥)



ジローが残した言葉に

ただただ、顔が赤くなってる

私の視線がジローに届いてた、なんて

嬉しいけど恥ずかしい

恥ずかしいけど、やっぱり嬉しい



(やっぱり、太陽だ)



チャイムが鳴り、席に着いてしばらくすると

バットの快音と、ギャラリーの歓声

その中心にいるのは、明るい太陽だった













(太陽を、捕まえた)



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