(なに、これ‥‥)



授業5分前に鳴るようにセットしておいた携帯のアラームで目を覚ます

閉じそうになる瞼を擦り、なんとか目を開いたその瞬間

目の前で起きてる、ある異変に自分の目と頭を疑った



(え〜と、確か、)



今日は教室にいるのがもったいないくらい天気が良かったから

読みたい本もあったし、ふらふらと中庭に足を運んだ

そしたら大きなもみの木の下に、広々とした木陰

何の躊躇もなく、そこに足を踏み入れたんだ



(本、どこまで読んだっけ)



手元の本の開いているページに目を通すも、全く記憶にないエピソード

後でもう一度目を通すしかない

溜め息混じりに本を閉じると、紙と紙の隙間から、ぱたん、と音が鳴る

その音から数秒後

太ももの上の物体が微かに動くのを感じた



(やば、起こした‥?)



変な緊張感で、恐る恐るその物体の正面を覗き込んでみる

そこにあるのは、眉間に寄った深い皺と低い唸り声

この顔には見覚えがある



(芥川くん、だっけな)



友達が彼と廊下ですれ違う度、「かわいい」と連呼していたのを思い出す

男の子に「かわいい」なんて失礼じゃないか、とも思ってた

だけど、間近で見ると確かにかわいい



(あどけない って、こういうのを言うんだ)



そんな風に考えながら芥川くんの寝顔をじぃっと見つめる

確か同じ学年だったと思うけど、どう見ても年下っぽい

思わず、小動物に抱くような感覚で、彼の頭をなでてみる

芥川くんは、気持ち良さそうに眠っている



(あ、授業‥‥)



ふと携帯のディスプレイに目をやると、5時間目が始まる1分前

教室は3階だから、ここから1分で行くには少し遠い

だけど行かないわけにもいかないので、芥川くんを起こすことにした

第一、彼だって授業があるだろう



『芥川くん』

「ぐー‥‥」

『芥川くん、起きて』



彼の肩をゆさゆさと揺らし起床を促す

そのとき、始業のチャイムが校舎中に鳴り響いた














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