ジローの手は、温かい

それは、昔から変わってない




「名前〜」

『なぁに、ジロー』

「‥‥手」

『はいはい、手ね』




でも

手の大きさが変わって

手の関節がごつごつになって

指が細長くなって



まるで、知らない男の人の手




まだ小さいころ

公園で転んだ私に差し伸べてくれた手

お気に入りのお菓子を分けてくれた手

笑いながらいい子いい子してくれた手



私が知っていたジローの手とは

違う、その手をきゅっと握りしめて

木陰に射す初夏の陽射しに

気持ち良さそうに目を瞑るジローを見つめる




『‥‥もう大人、だね』

「ん?なに、名前?」

『ううん、なんでもない』

「へんな名前〜」




ケラケラとおかしそうに笑うジロー

屈託のないその笑顔は

小さいころと全然変わってない‥‥




「‥‥‥なんで名前、泣きそうなの?」



なんだか悔しいよ

ジローは少しずつ大人になって

私の知らない、いろんな世界に飛び込んで

どんどん成長していくのに



私は

そんなジローの眩しい背中を

掴もうとしてもがいてるだけ

大人になんか、なれない

そう思ったら、涙が込み上げてきた




『‥‥なんか、ごめん』

「なんで?名前謝る必要ないしぃ〜」

『ふふ、ありがとうジロー』




空いている手で私の頭をぽんぽん撫でるジロー

穏やかな表情で、私を見つめる




眠気を帯びてきたのか、温かさを増した手から

「ゆっくりでいいんだよ」

そう、言われてるような気がした




『待っててくれる?』

「じゃあ‥、寝ながら待ってる!!」

『追い抜いちゃうかもよ?【うさぎとかめ】みたいに』

「ん〜‥‥名前ならいいや」




そしたら待っててくれるでしょ?

そう言ったジローの笑顔が眩しくて

繋いでる手の温度が、少し上がった気がした

















(あなたの言葉に、永遠を見た)



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