侑士に連れられるまま着いたんは、住宅地の一角

‥にある、とある医院の目の前



「ここや」

『ここ、ってもしかして‥』



もしかせぇへんでも、間違いあらへん

そこは、昔よう来た場所

侑士がおもむろに玄関のドアを開けると、知った顔が出迎えた

うちかてよう覚えとる、謙也のお母さんやった



「おばはん、お久しぶりです」

「あらぁ侑ちゃんいつ来てたん?男前になってもうて!って、そっちは‥名前ちゃん!?」

『おばさま、ご無沙汰しとります』

「そんなんええから早よ上がり!寒かったやろ?今お茶持ってくさかい謙也の部屋で待っとき!」

「ほな遠慮なく、行くで名前」



謙也のお母さんに促されるままお邪魔する

小学校以来来ぇへんかったんに、隅々まで覚えとる謙也んち

侑士に続いて階段を昇ったら、更に懐かしい謙也の部屋のドアがあった

侑士がめっちゃスゴい勢いでドアを開けたら、奥に居った部屋の主がビクぅってしよった



「なっ、ななな何やねんいきなし!侑士おまっ‥!」

「何や、俺に会えたんが嬉しすぎて言葉にならへんのか?」

「んなわけあるか!だいたい正月会うたばっかやろがボケ!」



目の前で繰り広げられる従兄弟達の挨拶

何が何だかさっぱりやけど、この感じ懐かしい

すぐムキになる謙也と、冷静沈着な侑士

うちが2人の喧嘩を止めさそう思ても、これがなかなか言うこと聞かんねん



「何の用やねん、て‥名前?」

「‥名前、泣いとるん?何も怖いことあらへんで?」

『ちが‥、なんか懐かしいなぁ思たら‥』

「‥謙也があかんねんな?こら謙也、名前泣かすな言うたやろこんのヘタレが!」

「な‥!大体お前が一緒に居ったんやろ!お前の責任ちゃうんか、この変態眼鏡!名前、こんなアホのために泣くこたないで!」



うちが泣くと2人がまた喧嘩しよるんも変わらん

2人のやりとりを見とるんが、うちはめっちゃ好きやったんや

せやけど、このままやと埒があかんから涙はしまっとこか



『侑士、何でここ来たかったん?』

「ああ、それはな‥このヘタレが原因やねん」

『謙也が?どないしたん?』

「こいつ昨日いきなり俺に電話してきよってん、しかも真夜中に」

「おい、それは言うなっちゅうたやろ侑士」



そう言うて、謙也はバツの悪そうに頭を掻く

さっきまでの雰囲気とは、まるっきり何かが変わった

何も喋らんようになった謙也の代わりに、侑士が口を開いた



「謙也がな、俺に名前んこと頼む言うてきかへんねん」

『うちの、こと‥?』

「‥せやかてしゃあないやん、名前は侑士が好きで‥お前かてそうやんか」

「アホ‥俺が言いたいんはな、ヘタレならヘタレなりに気持ち伝えんかい、っちゅうことやねん」



侑士が頭をぐりぐりと撫でても、いつもみたいに抵抗せぇへん謙也

侑士に、うちのこと頼む?

うちが侑士好きで、侑士もそう?

何なんや、勝手に話進めんといてくれる?

うちの頭はそない柔らかくできとらんねん



『ちょ、ちょお待ち』

「何や、名前?」

『‥あんたら、うちのこと好きなん?』

「それがどないしたん、そんなん今更っちゅう話や」

「‥まさか名前、お前今まで気付かんかったんか?」



2人の呆れたような視線が、うちに突き刺さる

しゃあないやろ、そんなん知るかいな!

そない自惚れた子ちゃうもん、うち!

大体あんたら、うちに好きの『す』も伝えんかったやん!

‥とか言える空気やないから、とりあえず視線を反らしたった



「ほなもう一遍確認するで、名前」

『お、おん‥』



気付けば、うちは謙也の部屋のベッドに腰かけとって

2人はその足元に跪くように並んで正座しとる

この光景、なんやうち女王様みたいで気分ええ

‥そないはしゃいどる雰囲気とはちゃうけど



「俺は名前が好きや、昔からずっと」

「お、俺かてずっと好きやってんで!名前のこと」

『はあ、さいですか‥』



真顔で、うちの目を真っ直ぐ見つめてきよる侑士

謙也はと言えば、真っ赤な顔で視線を泳がせとる



「‥でもええねん、名前は侑士が好きなんやろ?」

『謙也‥‥』

「俺かてそこまでアホやないねんで、当たり前やろ」



歯ぁ見せて笑ても、無理してんのがバレバレやっちゅうねん謙也

ホンマ、昔っからウソつくん下手やったもんな

そない泣きそうな目ぇして、うちのこと見んといて

今のうちには、謙也の首に抱きつくことしかできひんねん



「え、ちょっ‥名前!?」

『謙也‥あんたの気持ち、めっちゃ嬉しい』

「‥‥」

『せやけど許したってな、うち自分の気持ちにウソつきたないねん』



そう言うたら、謙也の頭が首元にすり寄ってきて

色素薄い髪が頬に触れて、なんやくすぐったい

横見たら侑士がおもろなさそうな顔しとるんが見えて、ちょお笑てしもた



「名前はいっつも謙也に甘すぎんねん」

『‥侑士もうちに甘えたいとか思うん?』

「そりゃ名前の気持ち聞いてからやんな、‥謙也そろそろ離れろやコラ」

「ちぇー、ええやろが別に減るもんちゃうし!」



侑士がうちの腕を引いたら、謙也の体温が離れる

ぶーたれとる謙也をよそに、侑士がうちの正面に座り直す

あかん、今更こーゆー雰囲気になられても困る

大体うちの気持ちもう分かっとるんなら何ちゅう羞恥プレイやねん



『え、と‥その‥』

「名前、お前の口から聞きたいねん」



侑士がそないな優しい目で見るから、余計恥ずかしいねん

ここまで来たら、もう観念するしかないみたいや

うちの顔、今めっちゃ真っ赤や恥ずかしい



『侑士が好き、です、はい』

「‥あかん!名前めっちゃかわええ!」

『え、ちょっ侑士、何してん!離し!』



侑士がいきなし抱きついてきよるから、ビックリしてもうた

甘えたな謙也と違うて侑士はあんまスキンシップせぇへんから、侑士とこない近付いたんは初めて

侑士の力がハンパないから、うちにはどうしようも出来ひん

せやから謙也、そない呆れた顔で見んといて!



『‥っちゅうか、いつからうちの気持ち気付いとったん?二人とも』

「お前、隠してたつもりかいなアレで!」

『うっそ!そないバレバレやったん?』

「まぁまぁ、そーゆーんも名前らしいわ」

『侑士‥‥』

「‥お前ら、イチャこくんやったら出てけ」












(アホやけど、俺らの初恋の人)



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