『何してんの侑士っ、このアホ!』





【絶対的存在】





大会当日、絶好のテニス日和

体調かて、そない悪いわけとちゃう

相手も格下のレベル、ホンマならとっくに主導権握っとるはず

‥なんやけど



「0‐40!」



気付けば試合開始直後、いきなりの3連続失点

サーブもよう決まらんし、ラリーも続かへん



(なんやもう、試合なんてどうでもええやん)



そう、思うたときやった



『何してんの侑士っ、このアホ!』



フェンスの向こうから聞こえた声

それは、今ここに居るはずのない声

せやけど、俺が聞き間違えるわけもあらへん

必死に、声の主の姿を探す



『レギュラー落ちてもいいの!?勝ちなさいよ!』



再び聞こえた声の方に、視線を動かす

フェンスにしがみつき、こちらを見つめる名前の姿が見えた

走ってきたんか、肩が大きく上下しとる



(せや‥負けてられへん)



名前が、俺に勝てと言うてるなら、俺は負けるわけにはいかん

こないなとこで、負けとるような俺やない

名前は、俺にとって"絶対"やから

名前の言うことかて、"絶対"なんや



「敵わんなぁ、ホンマ」



そう呟いて、黄色いボールを空に放つ

そこから先は、それまでの試合が嘘のように、相手に1ポイントも取らせんかった

ホンマ、どないやねん俺

名前の声だけで、こない変わるなんて



『ビックリしたよ、いきなり跡部くんから連絡きて』

『"レギュラーから外れる忍足が見たくなかったら今すぐ来い"なんて』

『来てみたら侑士負けてるし‥思わず叫んじゃったよ』



名前は、笑うて言うとるけど

そないな名前の声が、俺を奮い立たせたんや

俺にとっちゃ、名前は















(何物にも、代えがたい)


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