「名前、これええんちゃう?」
『あー、確かに侑士好きそうかも!』


インテリア雑貨屋さんは見てて飽きないから好き。それは謙也も同じようで、さっきから品物を見る目がひたすらにキラキラしてる気がする。

秋晴れの土曜日、謙也と二人で侑士の誕生日プレゼント探し。謙也から共同出資を持ち掛けられたから、二つ返事でオッケーした。普段喧嘩ばかりのくせに誕生日にはちゃんとプレゼントを考えてるなんて、なんだかんだで仲良しだなぁと感心したりして。


「よっしゃ、プレゼントも買えたし、そろそろ飯でも食おか」
『そうだね、謙也何か食べたいものある?』
「ん〜せやなぁ‥あ、この店はどないや?」
『いいね、ここにしよっか』


意外とすんなりプレゼントが決まったのは、謙也の見立てが良かったから。侑士のこと、よく知っているだけあって、好きそうなものもちゃんと分かってるからスゴい。

ランチ時の少し前、近くにあったカフェレストランに入店。可愛い雑貨で飾られた店内は、いかにも写真映えしそうな雰囲気だから、同年代のお客さんがたくさん。


『‥ていうか、謙也』
「ん?何や名前」
『侑士のプレゼントは共同出資、だよね?』


案内されたテラス席に着席して早々だけど、大事なことなので早めに確認しておかなければ。

実は、さっきのお店でプレゼントが決まっていざお会計というときに、急に「俺が会計してくるわ!」って謙也が颯爽と行っちゃったせいで、私が払う分のお金をすっかり払い損ねてしまっている。更にうっかりなのは、肝心のプレゼントの値札を確認するのを忘れてしまったから、いくら払えばいいのかも分からないところ。


「あー、それはええねん、気にせんとき」
『よくないよ、私にも払わせてほしいんだけど』
「ほな、今日付き合うてくれた分でチャラっちゅーことで」
『ええ〜、何それ‥』


全くもって納得いかない私を余所に、ご機嫌そうにランチメニューを眺める謙也。この様子だと多分、謙也は最初から私にプレゼント代を出させる気はなかったんだろうけど、それなら友達とでも買い物してきたら良かったのに。

メニューの向こう側、チラッと盗み見た謙也はさっきのご機嫌さはどこへやら、大層真剣にメニューとにらめっこ。そんなに眉間に皺寄せて悩まなくてもいいものを。


『謙也、決まった?』
「うーん‥これかこれかで迷ってんねん‥」
『あ、私こっち頼むから少しあげるよ』
「ホンマ?ほな、俺はこっちにしよ」


決まった途端、素早く手を挙げて店員さんを呼ぶ謙也は、テキパキしてるというかメリハリがあるというか。さっきまで悩んでたのと同じ人とは思えないスピード感で、注文を終えていく。

そう言えば、謙也と二人で外食なんて久しぶりかも。家でも外食でもいつも3人だから、何だか勝手が違くてソワソワしちゃう。意識しない、意識しない。


「名前、それ一口ちょーだい」
『うん、いいよ‥って、何その大きな口』
「何って、あーんやろ?あーん」
『しょうがないなぁ‥はい、あーん』


注文の待ち時間も、謙也とおしゃべりしてたらあっという間。周りの賑やかさも手伝って、家にいるとき以上に色んなことを話した。大学は勉強もサークルも順調、有意義に過ごしているみたいで何より。

そして、確かに私の注文したオムライスを少し分けてあげるとは言ったけれど、まさか食べさせることになるなんて。差し出したスプーンに飛びつく謙也を見てたら、無邪気で可愛いんたけど、何だか、ちょっと嫌な予感がしてきた。


「ほな、お礼に‥はい、名前」
『やっぱり‥あーんじゃなきゃダメなの?』
「当ったり前やん、あーん」
『‥‥、あーん』


嫌な予感って大体当たるから困る。目の前の謙也がことさら楽しそうな笑顔でビーフシチューを差し出してくるから、無下にするわけにもいかなくて、渋々いただくことにした。この歳になって人に食べさせてもらうなんて、恥ずかしいったらない。美味しいけど。

でも、謙也がとても満足げに笑ってるのを見たら、何だかこっちまで満更でもなくなってくるから不思議。居心地が良いって、こういうことを言うのかもしれないな、なんてふと思ったり。


「はー、腹いっぱいやー」
『本当にね、‥‥って謙也」
「ん?どないした?」
『お願いだから、私にもお金払わせてください‥』


レストランを出て、ビーフシチューで満たされたお腹をさする謙也の、シャツの裾を掴んで捕まえる。

結局、レストランのお会計も、謙也が素早く伝票を取ってしまって、私に払う隙を与えてくれなかった。いくらなんでも、そこまで奢られる謂れはないし、年下に払ってもらうなんて申し訳ない。


「ええて、今日のお礼言うたやろ?」
『お礼も何も、私何もしてないし‥』
「俺は、名前が一緒に来てくれただけで充分やねん」


ほな行こか、と謙也の服を握っていた手が解かれて、温かい手に包まれる。謙也の手は私のよりもっと大きくて骨張っていて、男の人の手って感じ。いや、男の人なんだから当たり前なんだけれど。

たくさんいる友達じゃなくて、私と侑士のプレゼントを選びたいと、謙也が思ってくれていたとしたら嬉しい。そうだといいな、の期待を込めて手を握り返したら、謙也がこちらを向いて嬉しそうに笑った。











(あ、これ可愛えやん!買おかな)(このぬいぐるみ‥‥イグアナ?)



−−−

目的はデートな謙也くん。


back

- ナノ -