「あっ、名字さんやん」
『白石くんや、こんにちは』


昼休み、2組の教室前の廊下でばったり白石くんに会うた。相変わらずのイケメンくんで、何より。

ちらっと横目で2組の教室内を覗くと、謙也くんは何やら男子に取り囲まれて賑やかそうにしとる。何しとるか知らんけど、何や楽しそうやなぁ。


「アレなぁ、ケンヤに彼女できたー言うて盛り上がってんねん」
『あはは、そうなんや〜』


その白石くんの言葉にドキリと心臓が高鳴る。白石くんは謙也くんと部活も一緒やし、もううちらのこと知っとると思うけど、知ってて敢えてそないなこと教えてくれるんやったらなかなかタチが悪い。

どないな顔でそないなこと言うんか思うて、白石くんの方を見たら、まぁいつもどおりの爽やかな笑顔。‥あぁ、これは全部知っとる顔や、間違いあらへん。


「いや、しかしケンヤと名字さんがなぁ」
『あ〜‥あはは、まぁね』
「"ええ奴"やさかい、よろしゅうしたってな」
『うん、知っとる』
「おお、こら失礼しました」


白石くんは私より謙也くんのことを知っとるんやろうけど、謙也くんが"ええ人"っちゅうことなんて私もとっくに知っとるし。もしかしたら、謙也くんがそない言われるん嫌なことも知ってて、白石くんは言うとるんかもしれへん。

白石くんを私の要注意人物リストに追加したとこで、噂をすれば何とやら、謙也くんが慌てとるみたいに友達をかきわけて廊下にやってきた。


「名前!何してん」
『謙也くんこそ、そない慌ててどないしたん?』
「え、俺はその、アレや、アレ」
「名字さんと俺が仲良さそうに話しとるからヤキモチ妬いたんやろ?素直やあらへんなぁ」


やかましいわ!なんて吠える謙也くんの顔は心なしか赤うて、もしかしたら白石くんの言葉が図星やったのかもしれへん。それならめっちゃ嬉しゅうて、緩みそうになる口許を必死で堪えとく。

目の前で繰り広げられるどつき漫才を傍観しとったら、謙也くんを呼ぶ声がして一時中断。何や、おもろいとこやったんに。


「スマンけど、これ運ぶん手伝うてくれへん?めっちゃ重いねん」
「うわ、文集かいな‥ええで、どこまで運ぶん?」
「職員室、‥ってもしやお取り込み中やった?」


おそらく2組の子なんやろう男子が大きな段ボール箱を抱えて、フラフラした足取りで近寄ってきた。会話の途中で私の姿が目に入ったんか、ちょお気まずそうな顔しとるけど、謙也くんは男子のそないな様子も全く気にせんと、当たり前のように段ボール箱の片側を支える。

そんな様子を見て、謙也くんは頼まれたり困った人を見たりしたら、それを助けようと体が勝手に反応してまう人なんや、とふと思う。それが彼の中で当たり前になっとるから、自分の損得も考えんと行動できる。ホンマすごい人やなぁ。


「ちょお行ってくるわ、名前またな」
『うん、気ぃつけてね』
「おう、任しとき!」


爽やかな笑顔を見せた後、謙也くんは男子を置いていきそうなくらいの猛スピードで職員室に向こうていった。何や見てて危なっかしいけど、謙也くんなら大丈夫、と思いたい。


「もうケンヤのアレは体質みたいなモンやなぁ」


よう引き受けるわ、と溜め息交じりに笑って白石くんが言う。確かに、謙也くんは相手が誰やったって嫌な顔一つせんと応えて、よう面倒がったり断ったりせぇへんなぁと思う。逆に言うたら、仲の良さに限らんと、誰にでも頼られるっちゅうことでもあるんやろか。優しいっちゅうか、お人好しっちゅう言葉がピッタリ。

そないな謙也くんに、他の人に優しゅうせんといて、なんて言うても意味あらへんかったこと、今更気付いた。下らんこと言うてもうたこと、後で謙也くんに謝らんと。


『あれでこそ、謙也くんやんね』
「まぁな、ケンヤのええとこの一つや。あとは‥ヤキモチ妬きなとこもな」


人のこと見ながらニヤニヤ笑うん、よしてくれへんかな、白石くん。他の人のために頑張れる謙也くんももちろん素敵やけど、ちゃんと私のことも気にしてくれる謙也くんもやっぱり好きやなぁとしみじみ思うたこと、めっちゃバレとるやん。恥ずかしい。

やられてばっかやと何や悔しいから、とりあえず白石くんの肩にグーパンチを軽めに一発お見舞いしといた。










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