「ぷっはぁ〜!一仕事終えた後のサイダーは格別やな!」


帰り道、無事に課題が提出できたお礼にと買うて渡したサイダーを勢いよくあおって、美味しそうに飲む謙也くん。これは完璧に私の主観やけど、謙也くんってサイダー似合う気ぃしてん。喜んでくれて何よりや。

気付いたらすっかり陽も傾いとって、私と謙也くんの影が長く伸びて並んどる。一緒に帰ることになるとは思うてへんかったから、何や少し緊張してまう。


『謙也くん居らんかったら、私、今頃まだ課題やっとるわ』
「そら言い過ぎやろ、名前ならすぐ終わるって」
『ううん、謙也くんのおかげやで、おおきに』


今日もう何回言うたか分からんくらいのお礼の言葉。それくらい、謙也くんに手伝うてもろて嬉しかってんけど、私の感謝の気持ちはちゃんと謙也くんに届いとるんやろか。

どういたしまして、って言う謙也くんの顔は夕暮れのせいでよう見えへんけど、多分笑うとる、はず。


『謙也くんがえ、‥優しい人でよかったわぁ』
「‥自分、今“ええ人“言おうとしたやろ」
『そ、そないなことあらへんし!ちっとも!』
「‥‥‥」


アカンアカン、課題出せたんがあんまり嬉しかったから、ついつい思うたことそのまま口に出してまうとこやった。上手いことフォローできた気でいたけど、‥謙也くんにはバレてもうたみたい。

慌てて否定してみたものの、謙也くんが黙り込んでもうた。これ以上は墓穴を掘りそうやから、口にチャックしとこうかな。


「‥名前、」
『なに?謙也くん』
「俺、何とも思うてへん奴に、こないなことせえへんで」


歩みを止めた謙也くんにつられて、私の足が止まる。さっきまでと違う真剣な声色で、その瞳がしっかり私を捉えとることは夕暮れ時でも分かった。まるで、心のど真ん中を射抜かれとるみたい。

謙也くんの言葉が、頭の中でぐるぐる回る。謙也くんはええ人やけど、誰にでもこない優しいわけやのうて、私だから優しゅうしてくれたっちゅうこと?それって、つまり。


『‥‥友達、だから?』
「ちゃう、つまり‥俺、名前が好きなんやけど、」
『え‥、えぇ、‥ホンマに?』
「いや、ウソついてどないすんねん!」


こないな時にボケんなや、と頭にチョップを入れてくる謙也くん。全然痛ないツッコミに思わず笑うてもうたら、謙也くんも一緒に笑うてくれた。ああ、やっぱり謙也くんは笑うとる方がええ。さっきみたいな真剣なとこもカッコええけど。


「で、名前、返事は?」
『えーと、‥私も、好き、です』
「えっ、‥ウソやん、ホンマに?」
『"いや、ウソついてどないすんねん!"』
「コラ、人のツッコミ一言一句パクんなや!」


さっきのお返しに肩にツッコミを入れたら、不意にその手を掴まれて、ぎゅっと握られる。ツッコミ返しのキレとは裏腹に、優しくて温かい大きな手。いきなりでビックリしたけど、恐る恐る握り返したら、謙也くんは照れ臭そうにはにかみながら優しく握り返してくれた。

謙也くんが"ええ人"なんはみんなが知っとるけど、それ以上やっちゅうことは私だけが知っとったらええ。‥まぁ、それ以上って何なのかは、私にもまだよう分からんねんけど、それはきっとこれから先たくさん知る機会があるとええなと思う。


『あ、謙也くん、』
「ん?何や」
『‥あんまり、他の子に優しゅうし過ぎんといてね』
「‥‥!おう、気ぃつけるわ』










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