「お、ケンヤ調子戻ったんちゃう?」
「うんうん、スピードにも磨きかかっとるでぇ〜」
「ホンマか?おおきに!」


ユウジと小春に珍しく褒められて、まんざらでもあらへん気分。確かに2人の言うとおり、あんだけ調子乗らへんかったんが嘘みたいに、今日の練習は絶好調や。


「何や、名字さんと進展でもあったん?」
「なっ、何で急にそうなんねん!」
「自分顔赤なっとんで、図星かいな」


分っかりやすいわ〜、なんてからかう白石はふざけとるように見えて実は結構鋭い。ここ数日考えた結果、こないだから調子悪かったんは、多分名字さんの頭のことが気になっとったからなんやと思うたから。

そんで、今朝のアレや。もうすっかり体調は大丈夫言うてたし、あん時からあった罪悪感みたいなんがスーッと晴れた、みたいな。せやからもう大丈夫、俺も。


「ケンヤにも春が来たんか〜、めでたいなぁ」
「何やねんソレ‥別に来てへんわ」
「ま、練習に響かんように程々に頑張りや」


ポンと俺の右肩に置いた手を、ひらひらさせながらコートに入っていく白石。俺が頑張ることなんてテニスの練習以外あらへんねんけど、アイツが何が言いたいんかさっぱり分からん。

白石の言葉に首を傾げとったら、白石と入れ替えにコートから出てきた銀がこっちに来た。流石、どんだけキツい練習してても涼しそうな顔しよるから凄い。アレか、心頭滅却すれば云々っちゅーやつか。


「おう、お疲れ!銀」
「おおきに、ケンヤも清々しそうやな」
「ん?まぁな、絶好調やで」
「ああ、そういや今日は名字はんも朝からご機嫌やったなぁ」


仏さんの顔で、銀がポツリと言う。名字さんと同じクラスやからって、わざわざ俺に報告してくれへんでもええねんけどな。

でも、今朝の件で、俺の気持ちがスッキリできたんと同じで、名字さんも何かええことがあったんかもしれへん。ふと、今朝のやりとりを思い出してみる。


"良うない、私忍足くんともっと仲良うなりたいもん"


名字さんは、ホンマやったら嫌ってもしゃあない俺と仲良うなりたいって言うてくれた。そんで仲良うしよって言うたら、めっちゃ嬉しそうに笑うてくれた。それが今朝のやりとり。

正直、仲良うしよ言うたとこで、別に連絡先交換したりとか何をするわけでもあらへんけど。今思えば、そんなんでも俺の言葉一つであないに喜んでくれたんはちょお嬉しかった。それが銀の言う"名字はんのご機嫌"に繋がっとるんやったら、尚更。


「余計なこと言うたな、堪忍やで」
「あ、いや別にええけど」
「‥ちなみに今の自分、めっちゃニヤけとるわ」
「えっ、ちょ‥、ウソやん!」


銀の言葉に慌てて口元を隠したら、あっはっはなんて銀の高笑いが響いた。アカン、ホンマ堪忍したって。思い出してニヤけるなんて、俺アホみたいやんか。

せやけど、思い出した名字さんの顔がめっちゃ可愛かってん。そんなん、嫌でも意識してまうっちゅー話や。










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