「頭、大丈夫か?」
『せやから、もう大丈夫やって!』


サッカーボール直撃事件から数日経ったんに、廊下で忍足くんとすれ違う度に心配される。‥っちゅうか、その聞き方も頭イカれとるみたいに聞こえてまうから、そろそろやめてほしいねんけど。

気にかけてくれるんは嬉しいけど、あの後保健室で寝たらぐわんぐわんするんも落ち着いたし、保健室の先生からも所見なしやったし、もうホンマ大丈夫やのに。


「忍足くんって意外と心配症なんやねぇ」
「お父さんお医者さんやから、とか?」
「あ〜それはあるかも」


事件のことを仲のええ友達に話したら、私の心配をよそに忍足くんの話題で持ちきりになったことは多分当分忘れられへん。もうちょい私のこと気にかけてくれてもええねんけど。

でも、そこで初めて、私にボールをぶつけよった忍足くんとやらが意外と有名人やっちゅうことを知った。全国区のテニス部のレギュラーで、街で評判もええお医者さんちの息子。さらにイケメンときたら、そらそこらの女子が放っとくはずあらへん。


「忍足くん、ええ人なんやけどねぇ」
『‥?けど、何なん?』
「それ以上にも、以下にもならんっちゅうこと」


分かる〜!と友達が一斉に盛り上がる。確かに、忍足くんはボール蹴るのこそ下手っぴやったけど、めっちゃええ人やった。みんなもそこは認めとるのに、何でそれ以上もそれ以下もならへんねやろ。


「何やろ、ザ・友達みたいな」
「友達やったらめっちゃ頼もしそうやけどね」
「彼氏‥彼氏にはちゃうねんよなぁ」


みんな納得したように深う頷いとるけど、いまいち理解できひん。つまり、忍足くんは友達としてはええ人やけど、彼氏にしたいか言うたらそうでもあらへん、と。あないええ人、彼氏やったらめっちゃ自慢できると思うねんけどなぁ。

みんなの中の忍足くん像が、こないだ私が見た忍足くんとはまるで違う人みたい。私しか知らん忍足くんの顔がある思うたら、何やちょびっとだけ優越感さえ感じてまう。


『私は忍足くん、ええと思うけどなぁ』
「名前、もしや忍足くん好きなん?」
「ええやんええやん、うちら応援するで!」
『いや、ちゃうって、待って』


あくまで一般的に見たら、っちゅう話をしとったはずやのに、気付いたら私個人の話になってもうて、日本語ってホンマ難しい。私の気持ちを無視して盛り上がる友達を制止するにも、私一人の力じゃ全く敵わんかった。

まさか、うちらのこない他愛もあらへん話を聞いとる人が居るなんて、こん時はまだ夢にも思わへんかった。










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