それは、突然の出来事やった。


「危ない、避けやー!」


そないな声が聞こえてきた次の瞬間には、私の頭に何か丸い大きなモンがクリーンヒットしとった。せやかて横から来られたら見えるはずあらへんやん。私の視界、そこまで広ないねん。

幸い勢いもそない強なかったし、普段ならよろけるくらいで済んどったとこやろう。けど、あまりの不意打ち具合もあって、気付いたらその場に座り込んどった。ぐわんぐわんする視界の隅に、凶器と思しいサッカーボールを発見。後で覚えときや。


「スマン、自分大丈夫か?!」


慌てて駆け寄ってきた、金髪の男子。きっとコイツがこのサッカーボールを蹴り飛ばした張本人。ホームラン狙うてどないすんねんアホ、て怒鳴りつけようにも頭がぐわんぐわんしとってかなわん。

ただ、コイツが来たことで、周りが何や何やと集まりかけてきよるこの状況を何とかしてほしい。今はもう、それしか考えられへんかった。


『あの‥、保健室に‥』
「保健室やな、分かった!」


何とか絞り出せた"保健室"っちゅうワードが、金髪くんにも届いたようで一安心。

‥したんも束の間、次の瞬間には体がフワッと浮いて、周りの景色が超高速で過ぎ去ってった。あれ、これはもしかせんでも、私、金髪くんにお姫様抱っこされとる?アカン、めっちゃ恥ずいやん!


『いや、大丈夫やから!歩けるし!』
「ええから、もうすぐやし」


抵抗むなしく、ホンマあっちゅう間に保健室に到着。金髪くん、めっちゃ足速うてビックリした。ちゅうか、生まれて初めてお姫様抱っこされたっちゅうのに、トキメキも何もあらへんかった。残念。

保健室の先生に事情を話したら、とりあえずベッドで休んどくよう言われたから、大人しくベッドに腰掛ける。金髪くん言うたら、ベッドのカーテンの向こう側から、私の挙動をめっちゃ心配そうな顔で見守ってくれとった。


『連れてきてくれておおきにね』
「いや、俺こそホンマすまんかった」
『大丈夫やから、気にせんといて』
「せやかて‥無理せんといてな」


微妙な距離を保ったまんま、金髪くんと小声で会話を交わす。さっきまで怒鳴りつけたろ思うてたけど、ホンマのホンマに申し訳なさそうにしとる金髪くんを見たら、そない気持ちはもうどっかにいっとった。


『金髪くん、もう戻ったらええよ』
「忍足、」
『え?』
「忍足謙也、3年2組や」


覚えといてな、と言うたとこで、金髪くん改め忍足くんはようやっと笑顔を向けてくれた。すこぶる心配してくれとった時も薄々思うてたけど忍足くんってイケメンやから、うん、やっぱ笑うてた方が似合う。


『あ、3年5組の名字名前です』
「名字さんか、よろしゅうな」
『ふふ、こちらこそ』


出会いのきっかけこそ最悪やったけど、忍足くんって結構ええ人かもしれへんと思うたら、何や少しだけ心臓が高鳴った気がした。











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