「名字、ちょお付き合うてんか」


憧れの忍足先輩が来たー!!て教室ん中に居る女子がパニクっとる。なんや可愛え後輩ちゃん達やなぁとか内心ニヤけとったら、呼び出した本人がしかめっ面で登場。

相変わらず無愛想やなぁ、なんて言おうもんなら強烈なパンチが飛んでくるやろうからお口にチャック。


『‥わざわざ何の用ですか』
「ええからええから、ちょお来ぃ」


ふてぶてしい名字の腕を掴んで、歩き始める。何の用とか言いながらも無抵抗でついてくるっちゅうことは、名字かて俺のしたいこと分かっとるんやろ?ホンマ素直やないやっちゃ。

屋上の給水塔に登って、ようやっと一息。俺が座ると、名字も隣に座る。


『‥もう、先輩は強引なんだから』


溜め息混じりに、名前が呟く。髪をかきあげながら笑うて言いよるから、なんや色っぽい。やっぱお前は仏頂面せんと笑うとった方が何倍も似合う。


「しゃあないやん、昨日誰かさんが学校じゃ会わんなんて言うてからに」
『だって怖いもん、ファンの人達』


“宍戸の彼女がファンに呼び出された”っちゅう話したら急に怖がってそないなこと言い出しよった。まぁ結局それはすんでのとこで通りかかった先生が止めて事なきを得たんやけど、昨日の宍戸はやけにイライラしとって鳳がビビっとったんがウケた。


「アホやなぁ、俺が守ったる言うてんのに」
『先輩ラブロマ見過ぎです』
「たまには俺にもええ格好させろや」


冗談混じりで名前の頭をぐしゃぐしゃにしたったら、めっちゃ怖い顔でこっち睨んどる。そない怒ることちゃうやろ。ただのスキンシップやんか。

そんなこと考えとったら、名前が髪型を直しながら俯いてぽつりと呟いた。


『先輩は、十分格好良すぎるんです』
「‥‥は?」
『だから‥先輩は格好良すぎて何でもできて人気だから、』


私なんかには釣り合わないんです

俯いたまんまの名前の声は今にも泣きそうで、思わず名前の腕を引いて抱き寄せた。俺の腕の中で、名前は堪えきれん涙を必死に手の甲で拭う。

いつもそう。付き合い始めてからずっと、名前は俺と釣り合わんっちゅうことを気にしとる。名前から告白されて付き合うたけど、今や俺かて名前のことめっちゃ好きやねん。気持ちならむしろ名前より大きい自信あんねんけど。それでも名前は周りの奴の目が気になってしゃあないらしい。


「名前、そろそろ顔上げ」
『嫌です』
「上げんとキスしてまうで」
『それも嫌です』
「アホ、そない嫌がんなや」


名前がやっと顔上げたと思たら泣きはらした瞳で小さく笑うから、なんやめっちゃ愛しなって結局キスしてもうた。可愛えねんホンマにもう。

怒るんかな思たら、急に物凄い力で押し倒された。名前は俺にしっかり抱きついとる。


『でも、私のものですから!』
「名前?」
『先輩は絶対離しませんからね!』


何やねんソレ。めっちゃ嬉しいねんけど。名前にはホンマ適わんなぁなんて思うて笑たら、名前もつられて笑うた。名前がこんなんやから俺も離れられへんねん。っちゅうか何言われても離してやらんから覚悟しぃや?










彼女と彼氏の憂鬱
(先輩、そろそろ授業です)(離さん言うたん自分やろ)




―――

謙也くん夢のつもりだったのに←


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