「‥何やねん、コレ」


昼休みの部室、連れも居らへんのに思わず声に出して突っ込んでまうくらいの出来事に遭遇。端から見たら、独り言言うとる怪しい奴に見られかねんけど。今、俺の目の前には、怪しい奴に見られかねんくらいに声に出して突っ込みたい光景が広がっとる。


(何で、名前がここで寝てんねん‥)


今は昼休み、その貴重な自由時間をどこでどない過ごそうと個人の自由やっちゅーことは重々理解しとる。せやから、うちの部のマネージャーである名前が、自らの部室であるこの場所に居って束の間の休息をとっとることは何も問題あらへん。

問題は、寝とる名前が手にしている、あのジャージ。


(コレ、俺のやん‥)


そもそも、俺がこの貴重な昼休みを使うてまで部室に来たんは、5限で使うジャージを取りに来たからで。そんで、そのジャージは今、すやすや眠る名前の腕ん中。どないなってんねん。

ふと、自分のロッカーに目をやっても、特に漁られた形跡もあらへん。っちゅーことは、朝練の時使うた後どっかに置いたまんま、うっかりしまい忘れてもうたっちゅーことは簡単に推測できる。


(しかしまぁ、よう寝とるわな‥)


気持ち良さそうに寝とる名前の腕に、がっちり掴まれたまんまのジャージ。そっと抜き取ろう思ても、下手したら起こしてまいそうで憚られる。別に起こしたところで、起き抜けの不機嫌な名前にぶちぶち文句言われるだけやろうけど。

それにしても、ジャージをこんだけ抱き締めるんやったら、遠慮せんと俺を抱き締めたらええのに。なんて言うたら、きっと名前のことや、顔を真っ赤にして殴ってくるんやろうな。結構痛そうやし、やめとこ。


「おーい名前、起きぃや」
『‥‥‥』


このまんま名前の可愛え寝顔を眺めとるんも悪ないけど、5限の始業時間も着々と迫っとることに気付く。小さく声をかけてみてんけど、まぁ案の定反応なし。

しゃーないから強行手段、起こしてまうのを覚悟でブツを回収。名前に直接触らんように、ジャージを掴んで一気に引っ張って抜き取ろう思たんやけど、そうは問屋が卸さんかった。


『だめっ、忍足は私のっ!』


引っ張ったジャージごと、名前が釣れた。何言うとるか分からへんかもしれへんけど、俺も正直驚いとる。何にせよ、名前は寝惚けながらもジャージを掴む力が半端ないっちゅーことが分かった。

で、どでかい寝言でまたビックリ。どんだけビックリしたかっちゅーと、言うた当の本人さえビックリして目を覚ましたくらい。


「おはようさん、名前」
『え、あれ、‥忍足?』
「せやで、名前の侑士くんやで〜」


そない言うたったら、さっき自分の言うたことを思い出したんか、顔真っ赤っかにして固まる名前。一体全体どない夢見とったんか、ぜひ教えてほしいもんやなぁ。

そんで今のうち、固まっとる名前の腕からジャージ奪還成功。おお、丁度ええくらいに温なっとる。どっかの武将の気分やわ。


『い、いつ、いつからいたの?!』
「んー、ついさっき」
『おっ、おこ、お、起こして、くれれば‥!』


どうにも恥ずかしゅうて逃げたなっとるんか、後退りで俺からジリジリ距離を取る名前。あーあ、今にも泣きそうな顔しよって、可愛えやっちゃ。

別にそない恥ずかしがること何もあらへんし、何より、逃げられたら余計逃したなくなるんが男っちゅーもんや。名前の進行方向の壁にやんわりと手をついたら、もう名前は俺と顔を合わさんと居られへん。


「泣かんでええって名前、な?」
『う、うるさい、バカ、退いて』
「名前がどないな夢見とったんか、教えてくれたら退いたってもええで」
『〜〜〜〜っ、‥意地悪』


顔真っ赤っかにして、涙目で、おまけに上目遣いで。そんなんで睨まれても、こう、何やそそられるだけやねんけどなぁ。当の本人が、それにちぃとも気付いてへんから質が悪い。

この後の名前の態度によっては、ホンマに俺が“名前の侑士くん”になんねんけど、それがどないなったかは‥‥ご想像にお任せしよか。










ねごと
(ほ、ほら5限始まるよ忍足!)(早う言わんと遅刻してまうで名前?)



ーーー

自分の寝言で起きるって、ある(ある)


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