『何やねん、急に!』


ボトッ、て音が聞こえそうなくらいの勢いでたこ焼きを落とす名字はホンマに見てて飽きひん。好きな奴居るか聞いてみたら、この反応。漫画みたいなリアクションやんな、流石。


「急ちゃうで、ずっと気になっててん」


放課後、俺らくらいの学生たちで賑わうたこ焼き屋で話すような話題でもあらへんことは重々承知しとる。白石あたりに見られようモンなら、ムードくらい作れとか何とかやかましく言われそうなくらい。

ただ、まだムードやら何やら作るにはちょお早いっちゅうか、念のため様子見せぇへんとアカン。念には念を、ヘタレとるんとちゃうで。


『ちゃうねん、ずっと気になっとったことを何で今このタイミングで聞くねんっちゅう話』
「んー、なんとなく?」
『なんとなく、て‥』


あ、今、あからさまに話を逸らしよった。表情や口調はいつも通りやけど、何ちゅうか、話の展開の仕方がいつも以上に唐突。これは、名字が少なからず動揺しとるっちゅう証。

そんで、この話で動揺しとるっちゅうことは‥いや、アカン。まだそないに焦って結論を出すタイミングちゃうはずや。落ち着け俺。


「‥あ、名字」
『え、あ、何?』
「言いたなかったらええねん、ごめんな」


俺の言葉に、別に構へんけど、とまたいつも通りの口調で返してくる名字。別に、なんて言うとるくせに、さっきまで順調やった爪楊枝の運びはすっかり止まっとる。何や、思うたより効果絶大やったんちゃうか、コレ。


(もっと、もっと、)


今、名字の頭ん中を俺が占めとると思うたら、ホンのちょっとした優越感。どうせやったら、四六時中、俺ん事ばっか考えとったらええのに、なんて。

俺、こないに自分が独占欲強いなんて思うてへんかった。こない風に感じるんは名字が初めて。


「ほら、名字、早よ食わんと冷めてまうで」
『あ、‥せやね、ごめん』


あんまり名字が固まっとるから、思わず声をかけてみる。まさかここまで効き目あるなんて思わんと、うっかりするとニヤけそうな顔を必死に抑えながら。

誰のせいやねん、なんて悪態の一つでもついてきそうなとこやのに、素直に俺の言葉に反応する名字。これはこれでしおらしくてオモロいけど、そろそろいつもの名字に戻ってくれてもええねんで。


「うわ、ええ食いっぷりやな」
『う、うっさいわ!』
「ま、名字らしいわ」


そうそう、そうやって冷めかけたたこ焼き慌てて頬張ってこそ名字らしいっちゅーもんや。さっきまでの様子とえらい違うて、思わず笑うてまいそうやったんを抑え‥たつもりが抑え切れてへんかったようで、口の端に青のりつけた名字にじとっと睨まれた。


「青のりついてんで」


その青のりを俺の指で拭ったれる関係になるには、もうちょい時間がかかりそうやけど。けど、確実にそのトキは近付いとる、と思う。










ある日、たこ焼き屋。〜Side Kenya〜
(自分、意外と鈍感やんな)


ーーー

ここから彼の猛攻が始まる‥(かも?)



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