「なぁ、好きなヤツ、居るんか」


何とまぁ、デリカシーの欠片もあらへんやっちゃ。ここが放課後の二人きりの教室やったら、流行りの学園ラブコメ映画のワンシーンになれそうなモンを。ここはどこやねん、学校近くのたこ焼き屋やで。しかも、他のお客さんもぎょうさん居って、いつも以上に賑やかやし。

あんまりの出来事に、持ってたたこ焼きを机に落としかけたけど、舟のお皿で何とかキャッチ。これアウトやったら弁償してもらわなアカンとこやったわ、ホンマ。


『何やねん、急に!』
「急ちゃうで、ずっと気になっててん」


デリカシーのデの字もあらへん目の前の金髪野郎、忍足は私の動揺も知らんと次々にたこ焼きを口に運びよる。ああ、その飄々とした顔に左フック決めたりたい。


『ちゃうねん、ずっと気になっとったことを何で今このタイミングで聞くねんっちゅう話』
「んー、なんとなく?」
『なんとなく、て‥』


へら、と忍足が笑いながら言うモンやから、体の力が抜けてったんが分かった。こっちの気も知らんと、何となくの不意打ちでそない質問はズルすぎる。まぁ、下手に前置きされても困るけど。

その質問の上手い受け流し方を、手許で持て余したたこ焼きに聞いてみても、何も出てけぇへん。私の動揺、顔に出てへんとええねんけど。


「‥あ、名字」
『え、あ、何?』
「言いたなかったらええねん、ごめんな」


答えあぐねとる私を見兼ねて、忍足がまた笑ってそう言うた。少しも悪気ない笑顔を見せてきよるから、別に構へんけど、なんて可愛げない言葉しか返せへんかったやんか。


(何で‥、)


質問の答えを探すんもそうやけど、さっきからそればっか頭の中に浮かんどった。

何で忍足が、私の好きな人を、ずっと気になっとったんか。さっきの何気ないやりとりが、繰り返し頭ん中で響いて離れへんねん。


「ほら、名字、早よ食わんと冷めてまうで」
『あ、‥せやね、ごめん』


誰のせいやねん、なんて悪態つく余裕なんて今の私にはあらへんかった。忍足の視線を気にせんように、食べ頃を過ぎてもうたたこ焼きを急いで口に含む。

ごめんね、たこ焼きさん。今度はもっとよう味わって食べたるから。


「うわ、ええ食いっぷりやな」
『う、うっさいわ!』
「ま、名字らしいわ」
『‥‥どーゆー意味やねん』
「え?そのまんまやん」


青のりついてんで、なんて相変わらずデリカシーのあらへん笑顔を向けてきよる奴に、この気持ちを伝えられたらどんなに楽なことやろか。でも今は、まだそのタイミングとちゃう気がして、出てきそうになる言葉を、たこ焼きと一緒に飲み込んだ。


(私の好きな人は、)










ある日、たこ焼き屋。〜Side You〜
(気付いて、ウソ、気付かないで)


ーーー

彼の心、彼女知らず。



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