「白石くーん、」
「ああ‥はーい、今行くー」


今朝から目の前で広げられとる光景。休み時間になると、うちのクラスの教室前には女子がわんさか押し寄せる。全校中の女子が集まっとるんちゃうかってくらい。


『忙しそうやなぁ、白石』
「ホンマやな、なんぼなんでも同情するわ」
『ええ〜?謙也、羨ましがっとんのとちゃう?』
「いや‥流石にアレはないわ」


もちろん、いくらうちの学校がおかしい言うても、毎日がこない異常な光景なわけとちゃう。"今日"という日が異常なだけ。いつもなら悔しそうに見守る謙也にさえ、そう言わしてまうくらい。

休み時間中、どこかに姿を消しては、授業が始まる頃になると、フラフラと教室に帰ってくる白石。その手には、大量の紙袋を持ちながら。


『大漁やん、良かったね』
「アホ抜かすなや‥身が持たんっちゅうねん」


すっかり疲れ果てて、いつもの澄ました顔がどっか行ってもうとる。これが、今日一つ歳をとって大人になった奴の顔なんかな。うわ、私はこないなりたないわ。


「お菓子に、タオルに、‥なんやこれ植木鉢?」
「お、これ希少種の毒草や‥詳しい奴おるんやなぁ」
『うわぁ‥リサーチばっちりやね‥』


白石の机の周りには、今朝から受け取り続けとる誕生日プレゼントの山々。もうロッカーも靴箱もいっぱいらしい。なんや少女マンガの世界やな、まるで。

でも、どないなプレゼントでも、ちゃんと面倒がらんと一つ一つ受け取っとるところを見ると、流石はモテ男なだけある気ぃする。変なとこマメっちゅうか。


「あ、コレ俺欲しかったシャーペンや」
「欲しいんなら売ったってもええで、1000円」
「高っ!原価考えや!」
「俺へのお祝いの気持ちがこもってんねん、安いくらいやろ?」


男子ってホンマ、デリカシーあらへん。きっと笑顔で受け取ったくせに、それを簡単に友達にあげるなんて。一つ一つに添えられた心のこもったメッセージカードにも、どうせ見向きもせぇへんねやろな。

ましてや、メッセージカードさえついてへん、他のよりも大層地味なプレゼントなんて尚更。


「あ、コレは?」


ちょうど欲しかってん、と謙也が山から取り出したんは、他のよりもシンプルな、若草色の包装紙でラッピングされたプレゼント。包装紙の向こうにうっすら透けて見えるのは、これまた若草色のブックカバー。

っちゅうか自分、すっかり白石にたかっとるやん、アホか。


「あー‥それはあかん、あげられへんわ」


それまでは謙也を笑い飛ばしとったんが、急に真剣な表情になる白石。素早い動きで謙也の手から取り上げたそのプレゼントを、大事そうな眼差しで見つめる。謙也も流石にビックリしたみたい、目ぇ真ん丸くしとる。


「これは大事な人にもろてん、堪忍やで」


すっかり尻込みしてもうた謙也を横目に、そのプレゼントを開封してみせる白石。新しい牛革のブックカバーを撫でる手つきがとても優しくて、見ているこっちがドキドキしてまう。


「おおきにな、名前」


気に入ったわ、とこっちに向けてくる白石の笑顔は、一つ歳をとっても全然変わらん。私の好きな、いつもの白石の笑顔。それを見られただけで、プレゼントをあげた甲斐あったかも。

不思議そうな顔しながら、白石と私を交互に見とる謙也はこの際放っとこう。










大切な貴方に
(リクエスト、覚えててくれたんやな)(当たり前やん、嫌ってほど聞かされたし)


ーーー

お誕生日おめでとう!な初白石くん話。



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