『うぅ〜ん‥‥』


低く唸る声と布団の擦れる音が静かな部屋に響く。確かに今晩はいつにも増して湿度が高うて寝苦しい。現に、寝苦しゅうて寝付けてへん奴が此処に居るくらい。

布団から這い出てやっとの思いで窓を開けても、室温とそない変わらへんじめっとした空気が入り込んでくるだけ。少し前まではええ風入ってきよってんけどなぁ。どないなってんねん、と夜空に浮かぶ月でも睨んだろか思たけど、意外と眩しゅうて目を伏せた。


(月って、結構明るいねんな‥)


今まではすぐ寝付いてもうてたから気付かへんかったけど、窓に頭向けて寝とるから窓の外の月がよう見える。しかも最近は雲ばっかでよう見れてへんかったから、月の光がやけに新鮮に感じてまう。あれ、しかも今夜は満月やろか、道理で綺麗なはずや。

月の光が室内まで入り込んどって、いつもとは違う雰囲気の部屋。こないに明るいんに、ユーシはよう寝られるなぁ。どれ、たまには寝顔でも覗いたろかーと隣に視線をやると、そこには。


『んん〜‥、ううぅ‥』
「ぅえ、‥‥っ!?」


あまりにも吃驚して危うくデカい声出してまうとこやった。むしろ寸でのとこでよう抑えられたわ俺、自分を褒めたりたいくらいや。やって、やって俺の隣に居ったんはユーシより小っこくて細い名前の姿。心臓飛び出るかと思たやんけ!


(な、何で名前が此処に居んねん‥っ)


ユーシと俺の間に横たわっている名前。確か、今日は大学のゼミのみんなで飯食うてくるから遅なる言うてたっけ。酒でも飲んで寝惚けて、部屋間違うたっちゅーとこが相場やろか。

ちょうど俺の方を向いてすやすやと眠る名前の顔はちょお頬っぺたが紅うなってて、綺麗。よう考えたら、こない近くで名前の顔を見たんは初めてかもしれへん。やっぱり可愛え顔しとる、これで彼氏居らへんて嘘やろ。


『んんぅ〜‥』


しばらく寝顔を眺めとると、湿度のせいか寝苦しそうに唸る名前。どうにかしたりたいとは思ても、どうにもできひんのが歯痒い。とりあえず、視界の端に入ったユーシの扇子を借りて名前を扇いだったら、眉間に寄っとった皺が少し和らいだ気がした。


(しゃーない姫さんやなぁ‥)


俺らより3つも年上のくせに、何や放っとけへん。目が離せへん、て言うた方がええかもしれん。普段はちゃんとしとって大人っぽいかと思たら、こない可愛え寝顔見せたりして。見てて飽きひんから、ずっと傍に居りたいって思うんやろか。

不思議なモンやなぁ、なんて考えとったら、名前の寝顔を眺めながら若干ニヤついとる自分に気付いた。アカン、こない顔ユーシに見られたら絶対からかわれる。せやけど名前が可愛すぎんねんもん、しゃーないやん。けど一応、空いとった手で口元押さえといた。


(好き‥やなぁ、やっぱり)


最初は、からかい甲斐のある女の子やと思た。けど顔も可愛えしスタイルもええし、何よりこっちの生活にすぐ慣れることができたんは名前の気遣いのお陰。いつからなんかは思い出せへんけど、俺ん中で名前は「ええ人」以上の存在になっとった。

せやからって別に、今の関係を壊してまで恋人になりたい、とは思わへん。そら名前が彼女になってくれたら嬉しいけど、ユーシがそれ知ったら変に気ぃ遣うてまうやろから。今はまだ、名前と俺とユーシの3人でわいわいやってけたらええと思う。それが一番楽しいし幸せ、それでええ。


(そのうち、いつか‥な)


俺の密かな恋心が、いつか叶う日が来るように。いや、絶対叶えてみせたる。そない決意に、目の前の愛しい名前のおでこに小さく唇を寄せた。

そんとき小さく微笑んだ名前の表情が、降り注ぐ月明かりに照らされてめっちゃ綺麗で。寝苦しい夜が少し和らいだ気ぃした、なんて俺も大概単純やんな。








使
(うわああ!何で2人がいるの!)(‥ここ、俺らの部屋やねんけど)



―――

節電してる設定。笑


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