『‥あ、雨、強くなってる』


気付けば研究室の窓を打ち付ける大きい雨粒に、思わずしかめっ面。朝は雨降るなんて言ってなかったから、傘なんて勿論手元にはないわけで。さっきまでは小降りだったからすぐに上がるだろうと思ってた、油断した。


『帰りには止むかなぁ』
「いや、結構降るみたい」


窓の前で雨を眺めてた友達が、携帯片手に溜め息混じりに呟く。どうやらネットで雨雲情報を見たらしい。


「‥あ、話変わるけどさ、」
『ん?』
「名前の息子たちって、どんな子だっけ」


友達は、侑士と謙也のことを「息子たち」って呼ぶ。何度訂正しても直してくれなくて、すっかり定着しちゃったみたい。

毎日一緒にはいるけど、改めて聞かれると困る。窓の外の曇り空をぼんやり眺めながら思い出してみる。


『そうだなぁ‥』
「あ、見た目でいいから」
『とりあえず、侑士は黒髪で長髪の眼鏡くん』
「もう一人は?」
『謙也は‥金髪の短髪、かな』


2人とも中身こそ個性的だけど、見た目的な特徴って言ったらそれくらい。あ、そういや2人は傘持っていったのかな。今頃困ってたりして。


「2人とも身長同じくらい?」
『多分そう、‥って何で?』
「いや、下に似たような2人組がいるからさ」
『あぁ、なるほど‥って、えぇ!?』


友達の言葉に、慌てて窓に駆け寄る。友達が指差した先に居たのは、見覚えのある傘を差した黒髪と金髪の2人組。

何で?とか、2人とも大学は?とか、とにかく色んな疑問が頭を駆け巡った、まさにその時。机に置いていた私の携帯が着信を知らせた。発信元なんて見なくても分かる。震える携帯を握りしめたまま、研究室を飛び出た。


「名前、電話出ぇへんで」
「図書館居るんかもしれへんな、メールするか」


研究室棟の入り口から数メートル先、傘を差して佇む2つの人影は間違いなく侑士と謙也。

微妙な距離に大声出して呼ぶのも気が引けて、どうやって気付いてもらおうかと考えていたら、丁度こちらを向いた侑士と目が合った。


「名前居ったで、ケンヤ」
「あ、ホンマや!」


私に気付いて駆け寄ってくる謙也と、それを追って歩いてくる侑士。

何だろう。今朝も顔を合わせたはずなのに、思いがけず2人に会えたことに心臓が高鳴る。


『どうしたの、2人とも大学は?』
「ユーシが午後休講になってん!」
「ケンヤは元から4限以降授業入ってへん言うし、ほなら名前を迎えに行ったろ思てな」
「ほら、名前、今日傘持っていかんかったやろ?」


謙也が、今差してる傘とは別の傘を得意気に見せる。それは私のお気に入りの傘。2人でわざわざ届けに来てくれたんだ、‥ちょっと嬉しいかも。


「名前、いつ頃用事終わるん?」
『んー‥もうそろそろかな』
「ほな、今日の晩飯はどっか食いにいこうや!たまには外食もええやろ?」
『そうだね、じゃあ早く終わらせてくるから‥ちょっと待っててくれる?』
「ん、頑張ってきぃや」
「早うしてなー」


2人とも見た目こそただのイケメンだけど、中身は優しくて面白くて‥うん、言葉じゃ言い表せられないいい子達。こっちの心まで穏やかにしてくれる、自慢の同居人。

2人の言葉を背に受けて急いで研究室に戻ったら、窓から一部始終を見ていたらしい友達のニヤニヤ顔が待ち受けていた。











(名前、俺、焼肉食いたい!)(俺、寿司がええわぁ)(‥はいはい、じゃんけんしなさい)



―――

すっかりオカン的ポジション。


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