「何や感慨深いなぁ」
『ホンマやねぇ』


桜の花びらが、微風に乗って舞う。私達の胸には下級生からつけてもろた花飾り。この通学路を歩くのは今日で最後やと思うと、いつもと違う風景に見えるから不思議。


「校長のおかげでちぃとも泣けへんかったわ」
『あはは、いちいちコケんのに必死やったからなぁ』


卒業式でさえも笑いの溢れる学校。そない学校やったから、3年間ずっと楽しゅう笑てられたんやと思う。あの校長、なかなか侮られへん。

次の信号を渡って左に曲がれば、いつも立ち寄る小さな公園。何も言わんでも、お互いの足はそこを目指す。


「ここに来るんも、今日が最後かもなぁ」


ベンチに腰掛ける謙也が、ぽつりと呟く。その一言が何や寂しゅうて、よう反応できんまま隣に腰を下ろした。きっと、この言葉に深い意味はあらへんねやろうけど。


「あ、せや‥名前、これ」


制服のポケットから謙也が取り出したのは、校章の入ったボタン。前に第2ボタン予約しといたん、覚えててくれたんや。他は全部完売したみたい、‥まぁしゃあないけど。


『謙也おおきに、大事にする』
「ん、名前に貰われてそいつも喜んどるわ」


屈託のない謙也の笑顔は、いっつも私を幸せにしてくれる。せやのに今日は、今日だけは、何や泣きそうになる。‥っちゅーか、泣く。涙が勝手に出てきよった。


「‥っわ、名前!何泣いとるん!」
『や‥わ、分からん、けど止まらへん』
「だ、大丈夫やから、泣かんとき!な?」


何が大丈夫やねん、なんてツッコミは寸でのとこで飲み込んだ。

私の涙にいちいち慌てる謙也を見ると、愛されとるんかもって思えるんは何でなんやろな。泣き止まそうと私の頭を撫でる手が、めっちゃ優しいからなんかもしれん。


『ごめ‥、絶対泣かんて決めとったんに』
「謝ることちゃうわ、‥名前」


ハンカチで必死に涙を拭いてたら、不意に謙也の腕の中に引き寄せられる。謙也は温かい、から心地ええ。寄り掛かったら、もっと強い力で抱き締めてくれる。


「‥色々、ありがとうな」
『‥ん』
「そんで‥、これからもよろしゅう」


耳元に届く、謙也の低い優しい声。優しすぎて、余計に涙が溢れてまう。

ありがとう、は私の台詞。謙也と出会えて、私の生活は華やかに色づいた。それはこれからもずっと変わらへん、て信じてええやんな?アカンて言われても信じたるけど。


『ま、高校も一緒やしなぁ?』
「や、けど何ちゅーか、この際ちゃんと伝えとこ思て」
『そっか‥うん、こちらこそよろしゅう』
「ん、」


謙也の広い背中に腕を回したら、もっと強い力で抱き締めてくれた。卒業してもずっとこの腕を、この温もりを信じてこうと思た。

謙也の肩越しに見た景色は、涙で滲んださくら色。










さくら色の約束
(第2ボタン、高校のも予約しといてええ?)(当たり前や、ここは名前専用やで)


―――

謙也の第2ボタンほしい←


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