今日も今日とて、朝から晩まで講義の嵐。医学部は6年あるんやからもうちょいゆとり持った時間割にできひんのかホンマ。


『いやいや、無理ですってば!』


溜め息吐きながら玄関の扉を開けて、耳についたんは名前の大声。誰か来とるんか思うたけど、玄関には見知った靴しか並んでへん。あれ、ケンヤはまだ帰ってへんみたいやな。


『や、だから出来ませんって!ちょ、先っ‥ああもう!』


様子をうかがいながらリビングへのドアを開ける。当の名前はソファから立ち上がって電話に向かって何や叫んどるところ。大方、無理難題押し付けられて一方的に電話切られてもうたっちゅーとこか。

携帯を見つめて呆然と立ち尽くす名前に、ドアをノックして帰宅を知らせると少し驚いた瞳が俺を捉えた。


『あ、侑士おかえり』
「何やったん、今の」
『あ〜‥うん、ゼミの先生』


深い溜め息と一緒にソファに沈み込む名前。普段落ち着いた名前がこない取り乱しとるの、なんや初めて見たんちゃうか。珍しいこともあるもんやな。


『明日卒論の発表しろって言われてさ‥』
「どんくらい進んでるん?」
『全っ然!テーマもあやふやだし』
「そらまた難儀なこっちゃな」
『あぁ‥もうどうしよ‥』


頭抱えて悩む、てまさしく今の名前のこと言うんやろうと思う。そうか、名前はもう4年やし卒論書かなアカンのか。まだ卒業まで随分あると勝手に思とったけど、そうでもなさそうやんな。


『‥侑士くん、お願いがありマス』


一旦、荷物を部屋に置いてリビングに戻ったらソファの上に正座しとる名前の姿。いや、いきなり何してんねん。まぁ大体言いたいことは想像つくけど。


「‥冷蔵庫ん中、何あった?」
『えーと‥あ、牛こま買ってきた』
「ほな夕飯は肉じゃがにでもしよか」
『ありがと侑士!』
「はいはい、出来たら呼んだるからな」


今日の夕飯当番は名前やってんけど色々事情もあるみたいやし、今日くらい代わったろか。ギブアンドテイク、一つ貸しっちゅうことで。

急いで部屋に入ってく名前を見届けてから、キッチンにかけてあったエプロンをつけて早速準備を始めた。


「ただいまー お、美味そうな匂い!」
「お、遅かったなケンヤ」
「実験レポート終わらんかってん‥てアレ、名前は?」


あらかた夕飯の準備も終わった、ええタイミングでケンヤが帰宅。帰ってくるなりドタバタ足音響かせよって、お前は小学生か。


「部屋で課題やっとる、夕飯できたし呼んできてや」
「おう、任しとき!」


荷物持ったまんま名前の部屋に一直線で向かうケンヤの背中を見送って、肉じゃがを温め直す。一遍部屋に置いてきたらええのに、ホンマ落ち着きないやっちゃ。

見れるんは課題終わって晴々とした顔か、それとも全然終わらんと焦っとる顔か。どっちにしろ俺にはこんくらいしか手伝えへんけど、名前のために少しくらい後押しさせてぇや。もちろん貸しは返してもらうけどな、名前?











(ユーシ、名前が死んでんねんけど)(‥後者やったか)



―――

6月突入!!


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