「おはようさん、名前」
『あ、おはよ侑士 もうご飯できるからね』
「ん、おおきに」


まだ5月だっていうのにカンカン照りな今日この頃。今日は予定も何もないし、久しぶりにゆっくりお散歩なんていいかも。


『‥あれ、謙也は?』


出来上がった朝食をローテーブルに運んだあたりで、いつもと違うことに気付く。それと同時に、侑士も思い出したように溜め息を一つ。


「アイツ、布団から出てけぇへんねん」
『え‥体調悪いとか?』


そう、いつもなら朝食が準備できる頃には身支度を済ませてリビングに現れる謙也が、今日はまだ姿を見せない。医学部の学生が体調崩すってのも何だか不思議な話だけど、もし本当にそうなら病院に行かないと。そんな心配してたら、侑士がコーヒーを啜りながら首を横に振った。


「そーゆーわけでもあらへんみたいやけどな」
『あ、そうなの?』
「なんちゅーか‥まぁ、実際見てきた方が早いかもしれんで」


顎で部屋を指す侑士。とりあえず様子を見てみようってことで、まだ謙也がいるはずの部屋のドアをノックしてみたけど中から返事はなく。恐る恐るドアを開けると、丸まった布団とその端から覗く金色の毛。中身は間違いなく謙也。


『謙也、起きてる?』
「‥う〜‥‥」


近付いて布団越しに声をかけると、低い唸り声が返ってくる。一応、起きてはいるみたい。しばらく様子をうかがっていると、布団がもぞもぞ動いたあとに端から謙也がひょっこり顔を出した。


『おはよ、謙也』
「‥‥はよ」
『ご飯出来てるよ?』
「‥‥‥」


やっと顔を見せてくれたけど、気だるそうな返事しか返してくれない謙也。いつもとは明らかに様子が違うのに、熱でもあるのかと思っておでこを触ってみても特に問題はなさそう。どうしたらいいのか考えてたら、ふと謙也と目が合った。


「名前‥今日、授業休んでもええ?」
『‥え?』
「何やめっちゃダルいねん、行きたないっちゅーか‥」
『謙也、それって‥』
「な、名前‥今日だけ、お願い」


布団から半分だけ顔出してそんなウルウルした目でお願いされても、私には何も権限ないから何とも言いがたい。大学の授業なんて所詮自己責任だから、休む休まないは自分で好きにすればいいのに。まさか謙也、保護者から欠席の連絡入れなきゃいけないなんて思ってたりしない、よね‥?

私的にはそんなことよりも、下から見つめられてるこの状況の方が心臓に悪い。何その上目遣い、どこでそんなの覚えてきたの!


「‥なーんて、な‥冗談や冗談」


よっこいしょ、と重そうに起き上がる謙也。布団の上に座り込んで頭を掻きながら、欠伸を一つ。

でも、いつもの元気な謙也とはちょっと違う。いつもなら起きたと思ったら物凄いスピードで身支度してご飯食べて出ていくのに、今日はどこか上の空。これって、やっぱりもしかして‥


『‥謙也、もしかして五月病?』


五月病って言ってもこんなにあからさまに調子悪そうな人初めて見たけど、可能性はゼロじゃなさそう。謙也も思い当たる節があるのか、また低い唸り声を上げた。謙也のことだから、自分でも知らない間に気を張っちゃってたのかもしれない。


『まぁ‥気分が優れないんだったら、無理して行くこともないと思うよ』
「ホンマに?ええの?」
『今日の授業のノートとか、今度ちゃんと友達に見せてもらいなね』
「ん‥そうする、おおきに」


微かだけど、謙也がやっと笑顔を見せてくれたから一安心。謙也の頭を一撫でして『早く着替えてご飯食べよう』とだけ伝えて部屋を出る。私、母親になったら子どものこと相当甘やかしちゃうんだろうな、なんて。いけない、自分の子どもはもっと厳しくしつけないと!

リビングに戻ると、既に朝食を食べ終えた侑士が出かける準備をしているところ。謙也の様子を伝えると、侑士はまた一つ溜め息をついた。溜め息ついてばっかりじゃ幸せ逃げちゃうのに。


「ホンマ、手ぇかかる奴で堪忍な、名前」
『‥侑士、気付いてたんでしょ、謙也の様子』
「ん?何のこっちゃ」
『全くもう‥』


しらばっくれてくれちゃって、侑士ったら本当に要領がいいというか狡賢いというか。まぁ、どうせ今日は予定もなくて暇だったし、いい話し相手ができたってことにしておこうかな。


「ほな、行ってきます」
『お土産はハーゲンダッツの抹茶でいいからね』
「‥敵わんなぁ、名前には」
『思ってないくせに‥行ってらっしゃい』


笑う侑士の背中を見送って、今度は自分の口から溜め息を一つ。そろそろ謙也も着替え終わってリビングに来るだろうし、少し遅い朝食タイムといきますか。











(謙也、一緒にお散歩行こっか)(‥それ、デートっちゅーことでええやんな?)(いや、良くない)



―――

侑士はただ単に謙也のお守りをするのが面倒だったので、ヒロインにお願いしました。なんか分かりにくくなってしまってすいません‥!!

布団から顔半分出して上目遣いで見てくる謙也って可愛いと思いませんか^^←


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