ピンポーン‥


『き、来た‥!』


GW初日の夕方、恐怖のインターホンがリビングに響く。ついにこの時が来てしまった。

恐る恐る覗き窓を見れば、ドアの向こうには見慣れた顔。意を決して、鍵を解除してドアを開ける。


「お、久しぶりやなぁ名前!」
『元気そうだね、蔵ノ介も』


まぁな、と爽やかな笑顔で返してくる従弟。後のことを考えると目眩がしてくるけど、とりあえず家に上げて穏やかに話を切り出そう、うん。


「お、なかなか綺麗にしとるやんか」
『まぁね‥あ、紅茶でいい?』
「気ぃ利くなぁ、おおきに」


ソファに腰掛ける蔵ノ介を見届けてから紅茶を淹れる。蔵ノ介があの2人の存在に気付く前に話さなくちゃ。一応、目につく生活用品は隠しておいたけど。


『はい、蔵ノ介』
「ん、いただきます」
『でね、話があるんだけど‥』
「‥ちょお待ち、名前」
『え、何?』
「コレ、‥何や?」


そう言った蔵ノ介の手にあったのは、金色の髪の毛。あ、ソファを掃除するの忘れてた。間違いなく、あれは謙也の。というか何これ、浮気調査されてるみたい。後ろめたいことがあるのは事実だけど。


『あ‥こないだ友達が遊びにきたから、その時のかも』
「名前、金髪の友達なんか居ったっけ?」
『ん、最近仲良くなった子』
「やけに短いし‥男でも連れ込んどるんちゃうん?」
『そっ、そんなことないし!』
「はは、冗談やって!それとも‥図星やったりして?」


目を細めてニヤリと笑う蔵ノ介。何だかもう全て見透かされてるような気もしてきた。だけど流石に今日の寝床については誤魔化せないから、きちんと説明しなきゃ。


「で?名前の話って何や」
『あの、ね‥ちょっと客間が掃除しきれなかったから、今日は私の部屋で寝てもらってもいい‥?』
「俺は別に構へんけど‥名前は?」
『あ、私はソファで全然大丈夫だし』
「アカン!女の子にそないなことさせられるかいな」


いつの間にそんな紳士になったの蔵ノ介ってば。や、ちゃんと私を女の子扱いしてくれるのは嬉しいし、ちょっとキュンとしたけど今はそれどころじゃない。


「ほなら一緒に寝よか」
『‥はい?』
「別に今更気ぃ遣うことあらへんやん?昔はよう一緒に昼寝した仲やし」


そうしよ、だなんて一人で納得してないで。そりゃ小さい頃は普通に一緒にお昼寝したりお風呂入ったりしたけど、今じゃ状況がだいぶ違う。曲がりなりにもお互い成長したし、だってホラ蔵ノ介だって随分カッコよくてたくましくなって‥って私何言ってんのバカ!


『それは流石にちょっと、‥ねぇ?』
「大丈夫やって、万一間違い起きても俺が責任取ったるし」
『ちょっ、‥え?』
「ほら、従姉弟なら結婚できるやろ?」


いや、問題はそこじゃないよ。万一にも間違いが起きないように頑張ってよ。何が怖いって、蔵ノ介がそれをサラッと爽やかな笑顔で言っちゃうとこ。何が彼をこんな風にさせちゃったんだろう。


「ま、無事に寝床も決まったわけやし‥久しぶりに風呂でも一緒に入ろか?名前」
『え、ちょっと待って‥蔵ノ介!』


ソファから立ち上がった蔵ノ介に腕をやんわりと掴まれて、浴室の方へと引かれる。いやいや、一緒に寝るのもマズいけどお風呂なんて更に無理!蔵ノ介、どれだけ私を女の子として見てないわけ?いやでもさっきは女の子扱いしてくれたし‥ああもう何か流れがおかしい!

蔵ノ介の手を振り払えずにいたその時、客間のドアが勢いよく開かれた。


「ちょお待ちぃ、白石!」


ドアから現れたのは、客間の住人の一人。謙也、なんだかひどく憤ってるけど。って今晩は客間から出ちゃダメって言ったのに!


「誰か居る気配はしとったけど、て‥お前謙也やないか!こんなとこで何してん!」
『いや、あの蔵ノ介、これはね』
「ええか白石、俺の目が黒いうちは名前と2人で風呂なんて許さへんで!」
『ああもう謙也は黙ってて!』
「‥とりあえず座って落ち着こか、2人とも」


蔵ノ介にうながされて、謙也と大人しくリビングに戻る。あれ、この中で一番年上なの私だよね。何でこんな年下に冷静に対応されてるんだろ。でも、この中で今一番強いのは紛れもなく蔵ノ介だから下手に口出ししないようにしよう、うん。











(ちゅうかユーシはトンズラする気か!)(ユーシ、て‥従兄も居るんか謙也?)(ああ‥もう余計なこと言わないで‥!)



―――

エクスタシー侍、参上!!
侑士出てこなくてすみません‥


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