「‥名前、あんな」


部活後、コート整備中。いつもの元気な雰囲気とは違う様子で、謙也が声をかけてきよった。いつもならコート整備もパパッと終わらして部室行くんに、どないしたんやろう。


『どないしたん謙也、お腹すいた?』
「どアホ!‥や、ちゃうねん、ホンマ」
『ほなら何なん、いきなり』


いつもの調子で笑うてみたけど、謙也はやっぱりいつもと違う。声が低い。せやけど怒っとるんとも違う、真面目な、真剣な声やって分かるから、うちも思わず口許を引き締める。


「俺、名前に言いたいこと、あんねん」
『せやから何なん、早う言いや』


うちの後ろからブラシをかけとった謙也が足を止めるから、つられてうちも止まる。振り返ってみたけど、夕日がちょうど謙也の向こうに落ちとるから逆光で謙也の顔がよう見えへん。太陽背負うなや、眩しいやん。


「‥今はまだ、よう言えん」
『何やソレ‥』
「せやけど全国終わったらちゃんと言える気ぃすんねん‥せやから、」


それまで、待っといてくれへんか。


そう言い切った謙也がこっちに向こうてゆっくり歩いてくる、けどうちの足はぴくりとも動かん。何やろ、金縛りみたい。視線やって謙也から離せんと見つめたまんま。

ただ、謙也の顔が近付いてきたときだけは目ぇ閉じれたから瞼は金縛りにはならへんみたいや。おでこに柔いモンが当たってビックリしても普通に開けたし。

いやいや、今は金縛りとかどうでもええ。それより。


『え、ちょ、けんや、なに』
「全国終わったらちゃんと告白したるから待っといてな」
『は、え、こく‥?』
「ホラ早うせんと日ぃ暮れんで、名前」


私の頭にポンと手を置いて、足早に横を通り過ぎてった謙也の口許には照れたようなはにかみ笑いがあった。










夕日に照らされて
(どうせなら勝ってや、アホ)



―――

かっこいい謙也目指して撃沈


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