「‥なぁ、名前?」


嫌な予感。今は謙也の部屋でまったりデート中。なんやけど、思わず漫画に集中しとるふりをする。


「なぁ、名前ってばー」
『‥ん、どうしたん謙也』
「そろそろ、‥ええやろ?」
『え、や、ちょお待ち‥』
「嫌や、もう待てへん」


真面目な顔でじりじりと近寄ってくる謙也から、じりじりと逃げる。あ、あかん、これ捕まったら負けやで、名前。やって、寄ってくる謙也の手にあるんは‥


『いっ、イグアナなんて触れるかー!』
「何でやねん!いっぺん触ってみぃって!」


そう、手に抱えてるんは謙也が溺愛しとるイグアナ。うちホンマにあかんねん、そーゆー系。チラッと横目で見たら、チロチロ舌出しよる。何なん、うち何か悪いことした?


「名前、いっぺんだけ、お願い!」
『な、何で謙也、そないイグアナ触らせたがんねん‥!』


あからさまにしょぼくれる謙也。あかん、謙也の頭にワンコの耳みたいなんが見えるんはうちだけやろか。めっちゃ耳垂れて、きゅーんてなっとる!可愛え!


「‥やって、好きな奴等には仲良うしてもらいたいやん?」
『け、謙也‥』
「んでな、2ショット撮って飾っときたいねん!」


目をキラキラ輝かせて語る謙也。飾ってくれるんは嬉しいけど、何でイグアナと一緒やないとあかんねん。うちだけでええんとちゃうん。あれか、うちだけやと物足りひんっちゅうことか。うっわ、なんやショックや。


「‥名前?おーい、名前ー」


うちひしがれとったら、知らん間に謙也が心配そうにうちの顔を覗き込んどった。いや、それにしても近い。もうちょい頑張ればチューできそう。しちゃおうかな。えーい、してまえ。

目を開けたら、顔を真っ赤にして目を見開いてる謙也の顔。


「おま‥っ、いきなり何してん」
『何って、チュー?』
「アホ、そんなん分かっとるわ!」
『ほんなら何なん』
「‥俺いつも言うとるやろ、」


キスは男からするもんや、って


まだ真っ赤なままの謙也の顔が、ゆっくり近付いてくる。変なとこにこだわるっちゅーか、変に男気溢れとる謙也がなんやおもろい。そんな謙也も好きやけどな、とか思いながら次の感触に向けて目を瞑った、その時。


のそり、うちの手の上で動くモノ。


『‥‥っ、ひぃ!』
「あああスマン名前!さっきのでビックリしたら手ぇ離してもうた!」
『はやっ、早く、どかしてぇええ!』
「うわ、ちょ、大人しくしとき!」
『む、無理無理無理っ!やー!』


うちの服を登ってこようとしたイグアナを、謙也が何とかつかまえてゲージの中へ戻す。あかん、ホンマ生きた心地せぇへんかった。うち生きとるよな?うん、生きとる。


「‥大丈夫か?名前」
『死ぬかと思うたわ‥』
「そない嫌がらんでもええやんか」
『しゃあないやん、苦手なんやもん』


そら好きな人の好きなもんは好きになりたいねん、うちかて。せやけど体が勝手に拒否反応を起こしてまうねん。見てみぃこの鳥肌!

うちの気持ちが届くわけもなく、口を尖らせて不貞腐れとる謙也。ホンマ、しゃあないやっちゃ。


『‥分かった。うち頑張るから、イグアナと仲良うなれるよに』
「え‥ホンマか、名前!」
『そん代わり、少しずつ少しずつ‥な?』
「お、おう!おおきに!」


結局うちがイグアナを抱っこできるようになったんは、それから1年後のこと。










愛の試練
(ほな手始めに餌あげてみよか!)(いや、ハードル高すぎやろ!)



―――

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