※『偶然、そして、確信』の続き




『遅いなぁ忍足くん‥』


忍足くんとの偶然の出会いから1ヶ月。あれから何度かメールのやり取りをして、久しぶりに会おうってことに。

だけど、約束の時間になっても忍足くんの姿が見えない。遅刻とかする人って感じじゃなかったのにな。と思ってたら手の中の携帯が着信を知らせて震えた。ディスプレイには待ち人の名前。


『もしもし、忍足くん?』
「あ、名前さん?堪忍な、実は‥」
『‥え、乗る電車間違えた?』
「せやねん、気ぃついたらどんどん遠ざかってて‥」


ホンマごめん、と電話口で何度も繰り返す忍足くん。そんなに謝られたら怒る気も削がれちゃう。


「今折り返して向かっとるから‥せやな、30分くらい待たせてまうかもしれへん」
『うん分かった、着いたら連絡ちょうだいね』
「ごめん、おおきに」


忙しなく切れた通話に、思わず溜め息が漏れる。でもそれは呆れ半分で、残り半分はちょっと違う。

意外と可愛いところあるなぁ、なんて。そういえば、初めて会った日も地図片手に迷ってた。しっかりしてそうなのに、って思ったら自然と口元が緩む。


『さて、と‥』


彼が着くまであと30分、待ち合わせ場所から遠くないカフェで時間を潰すことにした。淹れたてのカフェラテを片手に窓際のカウンター席につく。

そう言えば、あの日も忍足くんに誘われてカフェに入ったな。あの後いくら言っても代金を受け取ってくれなくて、結構頑固なとこあるのを知ったっけ。あれがもう1ヶ月前だなんて、早いような気もする。


「すまん、遅なってもうて」


忍足くんと出会ったあの日を思い出してたら肩を叩かれて、ご本人が登場。あれ、私ここにいるなんて連絡したっけ?いや多分してない。


「あそこの改札降りたら丁度、名前さんの姿見えてん」
『あ、ホントだ‥気付かなかった』


ガラスの向こうに見える改札口を顎で小さく差す忍足くんが、隣の席に座る。今日は休日で人通りも多いのに、よく見つけられたなぁ。


「ホンマすんませんでした」
『全然、電車は色々ややこしいし』
「ホンマや、逆方向やって気付くんに時間かかってもうた‥」


ショボくれる忍足くんの肩にぽんと手を置いたら、少し困った顔で笑って「おおきに」と言われた。

会うの2回目だし久しぶりなのに、忍足くんとの会話は尽きない。学校の話、部活の話、友達の話。色んな話をしてくれるから、息つく暇がないってこういうことなのかなって思う。気付いたら時計の針が大きく進んでいたのに驚いた。


『‥あ、そろそろ帰らなきゃ』
「ほな出よか、送るし」
『え、いいよ全然!』
「大丈夫、‥あ、迷惑やったりする?」
『いや、そんなことないけど‥』
「ん、ほな決まりな」


満足そうに微笑む忍足くんの背中を追いかけてカフェを出る。陽はすっかり暮れて、肌寒い夜の空気。肩を並べて私の家へと歩く。


「ところで、名前さん」
『ん、なに?忍足くん』


歩きながら、忍足くんがぽつりと呟く。さっきまでより幾分落とされた声色に、何故だか心臓が煩く反応する。

ちら、と隣の彼を覗き見ても、前を向いたままの横顔は然程変わってない。


「‥笑わんと聞いてな?」
『うん笑わない、なぁに?』
「んーと‥なんや照れるけど、」


歯切れの悪い忍足くんは、前アドレスを聞いてきたときと同じ。じゃあもしかして、照れてるのかな?横を見上げたら、軽く握った拳を口元に当てる横顔。

何だろう、私の心臓は何かを期待してる。自分のいいように考えちゃうなんて。


「俺、名前さんのこと、好きやねん」
『‥うん』
「せやから、‥俺の彼女になってください」


こちらを向いた顔は、相変わらず綺麗。眼鏡の奥の瞳は真っ直ぐで、有無を言わせないような力。

私が一つ頷くと、綺麗な顔が優しく笑った。


『私も、あれからずっと気になってた、忍足くんのこと』
「俺の?どないなこと?」
『うん‥部活頑張ってるかな、とか』
「あとは?」
『えーと、‥また会いたいな、とか‥』


改めて口に出すと、何だか恥ずかしい。でも本当に思ってたこと。忍足くんと出会ったあの日を、忘れたことなんてなかった。

私の言葉に、目の前の忍足くんはまた笑った。この笑顔を、これからはもっと間近で見られると思ったら嬉しい。


「もう遅刻せぇへんから、またデートしてな?」
『うん、私もしたい』
「あと、電話もぎょーさんしよな?」
『そうだね、いっぱいしよ』


興奮したように話す忍足くんが可愛くて、思わず頭を撫でてみる。そうしたら手首を掴まれて、歩いてた足が止まって、真剣な忍足くんと目が合って。近付いた距離に、反射的に目を閉じた。


「あん時、名前さんに声かけて良かったわ」


そう呟いた忍足くんの言葉に、運命という存在を少しだけ信じられる気がした。










運命への一歩
(あの時、私以外の女の子に声かけた?)(名前さんしか相手にしてくれんかってん)(‥ナンパ野郎め)



―――

葉月さまへ捧げます!!

『偶然、そして、確信』の後日談というリクエストをいただきましたので、とりあえず2人をくっ付けてみました^^笑

侑士まだ中1なので、ちょっとは可愛らしい感じがあってほしいなぁ!!という草薙の願望が如実に現れています。でもキスはさりげなく、っていう天然のやり手だといい^^笑

葉月さま、リクありがとうございましたっ(*´∀`*)
遅くなってしまい、申し訳ありません‥!!返品・交換はいつでもどうぞ^^

これからも当サイトを、よろしくお願いします★


back
- ナノ -