『なぁ、光』
「‥‥‥」
『このピアス可愛えなぁ』
「‥触らんといて下さい」


部活前の部室。めんどくさがりの担任のおかげで帰りのHRもいつも他より早よ終わるから、部室でみんなが来るの待とう思たら先客が居った。その先客はみんなが居らんのをええことにベンチを独り占め。

で、うちはその先客にちょっかいを出して遊んどる。ええやん、どうせ光も暇しとったんやろ?たまには先輩マネージャーの相手してぇな。


『ええやん少しくらい!』
「‥耳元でうっさいっすわ先輩」
『コレ自分で開けたん?』
「人の話聞いたらどうです」


光が呆れ気味に横目でうちの顔を見る。そういう自分こそ人の質問答えてへんやんか。おあいこや、おあいこ。

それにしてもピアスなんてよう開けるなぁ。痛ないんやろか。保健室の前で金属アレルギーで耳たぶがえらいことになっとるポスター見てしもてから、うちは開けたいと思われへん。あれトラウマやねんホンマ。


「先輩は開けないんすか」
『む、無理無理!痛い!』
「痛ないっすけど、別に」
『光は無神経やからちゃう?』
「先輩よりはマシっすわ」


急に光の手が伸びてきた思たら、耳たぶを摘ままれた。人に耳たぶ触られるん初めてや。しかも光の指めっちゃ冷やっこい。

せやけど無表情で人の耳たぶをふにふにすんの止めてくれへんかな光。やっとること可愛えのにちぃとも可愛げあらへんわ。


「俺が開けたりましょか?」
『え、っ‥!?』
「先輩の処女耳、俺が貰ったりますわ」


耳たぶ触っとった光の手がうなじに回ったと思たら、急に引き寄せられて光の顔が近付く。耳元には光の低い声と吐息。そのあと、耳たぶに小さく鋭い痛み。痛い。

今、人の耳たぶ噛みよったでコイツ。何なん、お前はいつもそうやってピアス開けてもろてんのか。どないやねんソレ。


『なっ、なな何やいきなり!』
「開けたなったらいつでも俺に言うてください」
『あ、開けへん言うてるやん!』
「ふーん、そら残念っすわ」


相変わらずうちの耳元でボソボソ話す光。これ結構こそばゆいねんけど。うち耳弱いんやって初めて気付いた。せやからそろそろ顔を離そう思ても光の手がそれを阻む。何やねんな、アホ光め。

横目で睨んだらニヤリと不敵な笑みを返してきよった。今の顔をファンの子に見せたったらきっと発狂するんちゃうかな。いつも無表情なくせに、何や珍しいこともあるもんや。


「こないだ先輩に似合いそうなピアス見つけたから買うてプレゼントしたろ思たんスけど」
『え‥それホンマ?』
「ホンマやったら、開けてくれます?」
『ん〜‥考えとく』
「まぁ、ウソですけど」
『‥悩んで損したわ』


淡々と喋る光に、思わず溜め息が漏れる。ああもうこいつはいっつもこない感じに人をおちょくんねん。本心も何も見えへんし、何がしたいんか全く分からん。イケメンやなかったら許されへんでホンマ。


「まぁ、アレっすわ」
『ん?』
「耳も何も、先輩の初めては全部俺のモンですから、」


誰にもやらんといてください

綺麗に笑う光。あんたはどないな立場からモノ言うてんねん。うちら別に付き合うてへんやんか。そない台詞は大事なコト言うてからにしぃ。

ま、コレも光なりの愛情表現なんやろうと思う。しゃあないから予約受け付けといたろか。










次の一言を待ってる
(ホラ早よ言いや)(先輩が喜んでまうから嫌ですわ)



―――

なんか撃沈‥


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