『はぁぁぁ‥』
「どうしたの、名前」
『いや何か日々の精神的な疲労が溜まってて‥』
「ああ、例の従兄弟たち?」


春休みの大学のカフェテリアはいつもより静かで居心地がいい。目の前の友達はランチを食べながら私の様子を見てケラケラ笑う。本当、笑い事じゃないって。


「でもいいじゃん、2人ともイケメンなんでしょ?何そのドラマみたいなおいしすぎるシチュエーション」
『それが逆に心臓に悪くて‥』
「え、まさか名前、年下の男襲ったり‥」
『してません!』


友達の発想は突拍子なくて恐ろしい。何で私が襲う方なわけ?あの2人のことだから逆なら有り得そうな気もする。有り得ちゃ困るんだけど。


「てか、何をそんな疲れてんの?」
『あの2人、仲良いかと思えば喧嘩ばっかりで宥めるのが大変なんだよね‥』


これ、最近の悩み。うちに来てすぐの頃は静かだったのに、頻繁に口喧嘩をするようになった。しかもアイドルで誰が一番可愛いか、とかそんな下らない話題がほとんど。放っとくとエスカレートするし、毎回仲裁に入る身にもなってみろっていう話。


「ぷっ、なんか名前、お母さんみたいじゃん」
『え、この歳でお母さんとか嫌なんだけど』
「うそうそ、アレなんじゃない?」


たとえ私がお母さんであっても、子どもはあんな風に育ってほしくないな正直。そんな事思ってたら、友達が何か思いついたように持っていた割箸の先を上に向けて一言。


「実家みたいに落ち着けるようになってきたんじゃない?名前んちが」
『えー、そうなのかなぁ‥』
「だんだん素が出せるようになってきたんだよ、きっと」


間違いない!と友達が自信満々に力説する。そう言われると、最近2人ともよく笑うようになってきた気がする。慣れない生活環境に加えて、大学という新しい環境への変化。2人の心の張りつめたものが緩んできてるのなら、それはそれで嬉しいかもしれない。


『なんかあの2人が可愛く思えてきたかも』
「我が子のように可愛がってあげなさい、名前お母さん」
『お母さんじゃないって!』


昼食を終えて、図書館に寄ると言う友達と別れる。今日の予定は午前の卒論のガイダンスだけだったから、このまま家に帰ることにした。今日あの2人は予定ないって言ってたけど、何してるんだろ。


『ただいまー』
「あ、帰ってきたでユーシ!」
「ええタイミングやんなぁ」
『? なにが‥』
「ええからええから、名前ホラ早よこっち来ぃ!」
『わ、ちょ、待って謙也!』


帰るなりリビングから謙也が飛び出してくる。侑士はキッチンから顔だけひょっこり出したと思ったらまた消えた。2人ともなんか楽しそう。

だからって謙也、まだ靴脱いでもないのに腕引っ張るのやめて。危うくフローリングに顔面強打するとこだったじゃない!


『なに、そんなはしゃいで‥』


私が靴を脱ぐのを待ちきれずに謙也が走ってリビングに消える。その後を追ってリビングに向かったら、侑士と謙也がソファの真ん中を空けて座ってた。その目の前にあるローテーブルの上には‥


『え、そのケーキ何?』
「俺ら明日入学式やろ?」
「あと、名前にお世話になりますーっちゅう意味も込めてな、ダッシュで買うてきてん」
『‥‥‥』
「どないしてん、早よ荷物置いてこっち来ぃや」
『あ、うん‥分かった』


侑士の声で自室にコートと荷物を置きにいく。ドアを閉めて深呼吸。え、何だろうこの気持ち。嬉しいのかな私。っていうかあの2人あんな可愛いことしてくれちゃって何なの。

思わずニヤける顔を必死に抑えてリビングに戻ると、待ちわびた2人の視線を感じた。


「お、名前ここ座り」
『えー真ん中?いいの?』
「ええって、名前が主役やねんから!」
『‥じゃあ、失礼しマス』


手前に座る謙也の前を通ってソファの真ん中に座ると、小さいけど豪華なホールケーキと向かい合う。飾り付けられたフルーツの真ん中にあるプレートには「名前、ありがとう」の文字。

ていうか私、そんなに大したことしてない。2人の喧嘩止めるのも自分がイライラするからであって、ご飯も自分の分のついでに作るだけだし。こんな素直に感謝されると、自分もなんだか謙虚な気持ちになっちゃう。


『あ、ありがとう2人とも』
「それは俺らの言葉やって、なぁユーシ」
「せやで名前、色々ありがとうな」


両脇の二人から顔を覗きこまれて、顔の距離の近さにビックリする。でも何かちょっと優越感。両手に花ってこういうことか。友達が言ってたこともあながち外れてない気がしてきた。確実に、これはおいしい。


『じゃ、ケーキ食べよっか!』
「せやな、食べよ食べよ」
「よっしゃイチゴは俺のもん」
「あ、ユーシずっこいで!俺も狙うてたんに!」
「食うたもん勝ちっちゅう話や、あーん」
「ああっホンマに食いよった!‥お前、絶対後でしばいたるから覚悟しとき」
『ああもう、また始まった‥』










(謙也メロンあげるから、ね?)(‥なら我慢する)(甘えたやなぁケンヤは)(お前は黙っとれボケ)(もう止めなさい)



―――

両手に忍足^^!!←


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