最初はただのクラスメイト。席が近くなったり班が一緒になったりでそれなりに話す間柄。下らない冗談言い合って、たまにみんなで一緒に帰って。

あれから2年経った今、他の誰よりも近い存在になっているなんてあの頃は考えてもみなかった。


『なんか不思議だなぁ』
「何や、名前」
『こうやって、侑士の隣に居ること』


もう何度も2人で歩いた帰り道をこうして侑士とまた歩く。どちらから言うわけでもなく付き合い始めた私たちだけど、今ならちゃんと侑士が好きだと胸を張って言える。

私の言葉を聞く侑士は、夕陽に照らされながら微笑む。心なしか繋いでる侑士の手に力がこもったような。


「せやな、俺もまさか名前と付き合うとるとは想像もつかんかったわ」
『侑士はいつから私を好きになったの?』
「そんなん覚えとるかいな‥、名前は?」
『えー‥そんなん覚えとるかいな』
「真似すんなアホ」
『真似しとらんわアホ』


下手くそ、と私の頭を小突く侑士の仕草は優しくてとても心地いい。些細なことなのに心臓がきゅうっと締め付けられてるみたいになる。これが愛しいって感情なのかな。


『あの頃の自分に教えてあげたいなぁ』
「何を?」
『今の私は侑士と居て幸せだよ、って』


あ、今のちょっと恥ずかしい。ついでに侑士は想像以上に変態だってことも過去の自分に教えてあげなきゃ。って照れ隠しに言ったらさっきよりも強く小突かれた。侑士は笑ってるけどちょっと痛い。


『‥もっと彼女を大事にしてくれてもいいと思いまーす』
「めっちゃしとるやん、まだ足りひんの?」
『もっと丁重に!』


友達の延長線のような軽いやりとりも好きだけど、私はもっと侑士と恋人同士なやりとりがしたい。具体的にどんなのとは言えないけど、ドラマや小説みたいな甘い会話がいい。そーゆーの好きな侑士ならお手のものでしょ。


「わがままやなぁ、名前は」
『いつもの侑士の私に対する扱いがぞんざい過ぎるの!』
「ほな‥姫さん扱いでもしたろか?」


繋いでた手がほどかれたと思ったら肩に腕を回されて、耳元に感じる侑士の吐息。そうやって冗談みたいなノリで囁かれても、‥まぁ多少はドキッとするけどそうじゃなくて。侑士が好きな映画のワンシーンみたいに私を虜にさせてほしい。


「‥名前、分かったからその顔やめ」
『なんで』
「何で、て‥名前も人が悪いなぁ」


不満気に侑士の顔を見上げてたら、侑士は苦笑いを溢す。気付けば肩から重さが消えて、侑士の体温が遠のく。‥何だ、くっつけて少し嬉しかったのにな。

と思った瞬間、腕を引かれて侑士との距離がなくなった。向かい合わせて抱き合う体勢。


『侑士‥?』
「そんな顔、他の男に見せたらアカンで」
『え、』
「ホンマどっかに閉じ込めときたいくらい可愛えな、名前は」
『‥‥っ‥!』


額に、温かくて柔らかい侑士の唇の感触。侑士の顔が近くて、下手に顔を上げればきっとキスできてしまう距離。侑士とキスしたことないってわけじゃないけど、こんな距離で見つめあう経験なんてない。だから、侑士の胸元から顔を動かすことができない。

私の後頭部を撫でる侑士の手がいつものツッコミとは全然違って優しいから、何だか心がキュンとする。侑士はこんな触れ方もできるんだ。


「なぁ名前、いつまで下向いとるん?」
『え、あ、いや別に‥』
「俺、今めっちゃ名前にキスしたいねんけど」


侑士の言葉に驚いて思わず顔を上げたら、優しく私を見下ろす2つの瞳があった。ああ私は本当に侑士に愛されてるんだ、って思えた。こんな表情、友達のままなら見ることなかったんだろう。

ほどなくして降ってきた唇は、やっぱり温かくて柔らかかった。


「さっきの続きやけど、」
『ん?』
「俺な、最初っから名前のこと好きやった気ぃする」
『‥ふふ、私もそうかも』
「なんや俺ら最初っから両想いやったんかいな」
『でも何か、私たちらしい気がする』
「はは、せやな」


繋ぎ直した手がもう離れないように、強く握った。










いつからか、いつまでも
(あ、そういや1年の頃貸したジュース代返してもらってないんだけど)(何のこっちゃさっぱり)



―――

友達から恋人への変換期。


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