目が覚めて、自室のカーテンを開ければ今日もいい天気。洗顔を済ませてリビングに向かう途中、何処かから爆音のアラーム音。初めて聞いたときはビックリしたけどもう慣れた。これは謙也の目覚まし時計。


(相変わらずうるさい音‥)


だけど一向にアラームが止まる気配がない。これで起きないってどれだけ深く寝てるの謙也は。リビングまで響く耳障りなその音を止めようと、その部屋に踏み入る覚悟を決めた。


『‥よし、と』


無事にアラームを解除して一安心。侑士は既に大学の用事で留守にしていたから、部屋には呑気に寝息を立ててる謙也だけ。口開けて間抜け面だし、掛け布団は抱き枕になってるし。謙也は侑士よりは色々安全性が高いような気がして一安心。あどけなさが残ってて、寝顔も‥うん可愛い。


「んあ‥名前、‥?」
『あ、謙也起きた?朝だよ』


謙也の目が少し開いて、私を認識した。と思ったのにまた閉じた。何のための目覚まし時計なのか全く分からないじゃない。


「んん〜‥まだぁ‥」
『‥はぁ』


布団の上で駄々をこねる謙也を前に、溜め息を一つ。まぁ今日謙也は予定ないって言ってたし寝かしといても問題ないんだろうと思う。だったらそっとしといてあげよう。うん。


『謙也おやすみ』
「‥行かん、といて‥」
『え?‥っ、うわ‥!』


枕元にしゃがんで謙也の頭を撫でて部屋を出ようと立ち上がる。でも手首を謙也に掴まれてそれを制された。その反動で勢いよく引き戻されて、寝てる謙也の胸に飛び込んだみたいになる。うわ、なにこの態勢。しかも謙也の手が腰に回されて身動きがとれない。


「も‥すこ、し‥」
『や、寝てていいから離して』
「名前‥俺といっしょ、いやなん‥?」


見上げたら、寝惚けた謙也の虚ろな瞳が私を捉えている。どうでもいいけどその整った顔と低い声でこんな至近距離で甘えられても、なんかこう、私の心臓がもたないんですけど‥!


「名前、ふにふにしとる‥ええ匂い‥」
『ちょ、ちょっと謙也‥』
「ええ抱き枕ぁ‥」
『‥‥‥!』


謙也の両腕で抱き締められて、さらに動けない。頭に頬擦りとかされても嬉しくないのに心臓だけは過敏に反応しちゃうのは何で?謙也の体つきが意外と逞しいからかな。って私なに考えてんだか。


『け、謙也ほら、ご飯食べよご飯』
「いやや‥、このまんま」
『謙也、‥起きてるんでしょ』
「‥バレてもうた?」


そんな舌出してブリっこしたって騙されません。全く何だって寝たふりなんてしてるんだか。相変わらず謙也の腕の力が緩むこともない。


『謙也ご飯いらないんだね?』
「え、せやかてしゃあないやん!」
『‥何が?』
「名前の胸、気持ちええねんもん」
『‥‥‥!』


目の前にある謙也の口許が笑う。昨日の侑士といい謙也といい、もうちょっと私に対して謙虚な態度をとったらどうなの?まぁこないだまで高校生だったと思えば仕方ないのかもしれないけど、なんかもう反則。


『ちょ、謙也離しなさい!』
「嫌や、自力で出たらええやん」
『ううぅ〜‥っ』
「あはは、名前って可愛えなぁ」


芽生えたのは今更な危機感。私、この2人と暮らしてて大丈夫なのかな‥。











(名前、腹減った)(いらないんでしょ!)(作ってくれる言うまで離さへん)(‥はぁ)



―――

謙也好きなのに難しい‥!泣


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