「名前ちゃん今年卒業やろ?うちの子らが今年からそっちの大学通うねんけど、今使うとる部屋空くんやったら貸してくれへん?」
『え、私今年4年になるからまだ1年居るんだけど』
「あらやだホンマに?それがな、もうそっちに荷物送らせてもうてん〜とにかくよろしゅう頼むなぁ名前ちゃん、ほな」
『ちょっと、おばちゃん待っ‥‥切れちゃった』


大阪に住む母の友人から電話が来た後すぐ、本当に2つの段ボールが届いた。差出人は見たことのない名前達。でも字面を見る限り明らかに両方とも男。ちょっと待って、一人暮らしの私んちに2人も見知らぬ男が来るの?有り得ない、私一応嫁入り前のうら若き乙女なのに!

とか思ってたら、またもや予期せぬインターホンが鳴る。バレないように静かに覗き穴を確認。向こうに居るのは若い男2人。も、もしやコレって‥。


「居らへんみたいやなぁユーシ」
「そうか?俺、荷物今日の午前中に時間指定しといたけど不在票入っとらへんで」


間違いない、この段ボール達の送り主達。しかも片方は探偵ばりに鋭い。このままバレバレの居留守を使うわけにもいかず、仕方なく鍵を開けることにした。

恐る恐るドアを開けたら、立っていたのは2人の少年。眼鏡と金髪。どっちもなかなかカッコいい。


「何や居ったんかいな」
「オネーサン、名字名前やんな?」
『はぁ、ええまぁそうですけど‥』
「ま、とりあえず立ち話も何やし」
「ほな、ちょっくらお邪魔しますわ」
『え、ちょっと、待っ‥!』


2人に見とれてたら、目にも止まらぬ速さで部屋に押し込まれた。こちとら急すぎてスッピンだし部屋着だし掃除してないし、何かもう本当に最悪。何なわけ本当に。

溜め息混じりにリビングに行くと、招かれざる客達はソファに座ってふんぞり返っていた。態度でかすぎやしませんか貴方たち。


『何なんですか一体』
「オネーサン、茶でも出ると有難いねんけどなぁ」
「せやなぁ、俺なんか長旅で疲れてもうたわ」


なんかもうツッコミどころが多すぎて私も疲れた。だから言われた通りに紅茶を入れてローテーブルに勢い良く置いてやった。2人は驚いてるけど、そんなの知ったこっちゃない。せっかくの休日に何でこんなイライラしなきゃいけないの?ああもうイラつく。


「‥すんません、俺らちょおふざけすぎました」


明らかに不機嫌な私を見て反省したのか、金髪が小さく頭を下げる。眼鏡もそれに続いて頭を下げて、ソファに座り直す。

何だ、意外と素直に言えるんじゃない。最初からそうしてれば良かったものを。


「俺、忍足謙也言います。こっちは侑士」
「俺ら従兄弟で、今年から東京の大学通うんですわ」
『てことは今‥18歳?』
「そーゆーことになります」


今度は眼鏡の侑士くんがさりげなく笑顔で答える。従兄弟なのにこんなに仲良いなんて羨ましい。というか、2人ともまだ未成年のくせにやけに大人っぽいのは何でだろう。うちのゼミの男どもとは比べものにならない。


「で、オネーサンいつまでここ居るんです?」
「せや、オバハンの話やと今年卒業するっちゅうて」
『じ、実はですね、そこに誤解がありまして』


とりあえず彼らに事情を説明。おばちゃんが勘違いしてたこと、私の卒業は来年ということ、だからこの部屋は来年まで空かないこと。ちゃんと説明すればきっと2人も分かってくれるだろうと思う。


「何や、うちのオカンの早とちりやったんかいな」
「せやけどユーシ、今からやと部屋探すんキツいで」

『あ、でもきっと学生向けの寮とかもあるし探せば‥』
「寮は管理費とかいちいち高いしなぁ」
「あと門限あるんはいただけんな、つまらんし」

『じゃ、じゃあ不動産やさんで物件見てみるとか!』
「もう来週入学式やねんな俺ら」
「色々探しとったら確実に間に合わへんよなぁ」

『‥‥‥‥‥』


何この流れ。つまりアレですか。うち以外に選択肢はないとでも言いたいんですか君達。ああ金髪の謙也くんが切なそうな目でこっちを見てくるんだけど!

とか思ったら眼鏡の侑士くんに手を包まれた。謙也くんとは違う艶やかな目で至近距離で見つめてくる。色仕掛けってこういうことを言うんだ、きっと。


「なぁオネーサン、お願い」
『や、離して‥』
「俺らをここに置いてくれませんか?」
『いやでもそのあの』
「オネーサンしか頼れる人居らんのですわ」


まぁ確かにはるばる大阪から来て、知り合いもいないし心細い心境ではあるんだろう。だからってそんな寂しそうな顔されたら、追い返すわけにいかなくなるじゃない。


『‥しょーがないなぁ、分かった』
「‥ホンマに?ええんですか?」
『その代わり、早く次の部屋を見つけること!いい?』
「お、おん!やったなユーシ!」
「優しい人でよかったなぁ、ケンヤ」


喜んでる顔を見ると、何だか2人とも年相応。そこまで手放しで喜ばれるとこっちまで嬉しくなってくるのは不思議。


「おおきにな、名前さん」
『いえい、え‥!?』
「おおおおいユーシ何してん!」
「頬っぺたにキスなんて挨拶やろ、ケンヤ」
「お前は外人かアホ!見てみぃ!」
『‥‥‥‥‥』
「‥アカン、気ぃ失っとる」


こうして、私の一人暮らし生活は4年目にして一気に3人暮らしへと変わった。











(見てみぃ洗濯モン干しっぱやでユーシ)(C75か、まぁまぁやな)(‥ふざけんなよお前ら)



―――

こんな出会い。

草薙の願望だらけで申し訳!←


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