「先輩、なに泣いとるんスか」


放課後の屋上なんてベタな場所で誰が泣いとるっちゅうねん。光にそう言われて自分の目尻を触ったらホンマに涙が出とってビビった。何なん、これ。


『分かった、光がいっつも虐めるからや』
「まだ全然ぬるいっスわ、ほな今度から力入れて」
『うそうそ、勘弁したって!』


光は口では何だかんだ言うても優しい。せやからちょいちょいモテる。そんなんは別にええねんけど、問題は何でこないなトコに光が居るか、や。今日は練習オフ、おまけにテスト期間で早帰り。光の性格なら速攻帰っとるんちゃうかな。


「何べんも電話したんスけど」
『あ、うち今携帯持ってへんわ』
「あの先輩達、役立たへんから」


ああ、そういや今日は部室でみんなで勉強会する言うてた。蔵とか銀とか小春ちゃんなら丁寧に教えてくれそうやけど、金ちゃんと謙也とユウくんの家庭教師やもんな。ケン坊は一人で黙々と勉強しそうやし。光めっちゃハブられとるやん。


『光、寂しかったん?』
「分からん問題があっただけっスわ」
『へーえ、天才にも分からんモンあるんや』
「テニスと数学は別モンやねん」


はははそらそうや、なんて笑て見せても光は相変わらずのポーカーフェイス。あかん、静かになったらまた涙が出てきそう。光、お願いやから何か喋って。


「名前先輩、」
『ん?』
「俺やとあきませんか」
『‥何言うてん、光』
「あないな男より大事にしたります」


‥ああ、光は知っとったんや。うちが彼と最近別れたこと。すれ違うて気付いたら手ぇつけられへんようになっとった。好きっちゅう気持ちだけやアカン。この恋は、それをうちに教えてくれた。

でもな光、そない慰めは優しさとちゃう。余計切ないわ。


『‥ありがとな、光』
「早う部室来て下さいよ」
『おん、分かった』


言葉は少なくても、光はうちの気持ちを汲み取ってくれる。光だけとちゃう、蔵も謙也もみんなもうちのこと分かってくれる。何なんもう、あんたらエスパーか。

部室へ帰ってく光の背中を見送っとったら、急に足を止めた。どないしたんやろと思たら、光がくるっとコッチを振り返る。


「もう一つ忘れとりました」
『えー、何なん』


ちょお駆け足でうちに近寄ってくる光。駆け足なんて珍しいやん、蔵の号令にも走らんくせに。とか考えとるうちに、気付いたら光の顔がめっちゃ近うて驚いた。

アカン、ただでさえ光はうちの部きってのイケメンなんやからそない近いと変に意識してまうやんか。


「その顔、直してきて下さいね」
『え、顔‥?』
「泣いとる名前先輩の顔、めっちゃ色っぽいスから」


うちの視界の端にはニヤリと口端を上げる光。固まるうちを他所に颯爽と歩いてく光の背中がめっちゃ憎らしゅうて、せやけど何でか










ひどく心を掻き乱す
(ホンマにもう、勘弁したって)



―――

財前は罪な奴。


back
- ナノ -