『忍足ってさぁ』
「なんや名前」
『‥甘いもの、好き?』


部室のソファに深う腰かけて名前が呟く。あいにく俺は着替え中でロッカーのほう向いとるからその表情は伺えへん。どないな顔してそない可愛えこと言うとるん自分。

ふと壁に掛けられたカレンダーを見れば、もう近く迫ったバレンタインの文字。やけに手書きでカラフルに書いてあるんは岳人が「いっぱいもらえますよーに!」言うて気合い入れとったから。あ、何や思い出しただけで岳人の必死さが笑える。


「俺はチョコでも煎餅でも、名前がくれるんやったら何でもええで」


ネクタイをしめ、ロッカーの内側の鏡で曲がっとらんか確認。名前のちっこい溜め息が耳に届いたけど聞こえへんふり。


『いや忍足じゃないし』
「ほならそいつに聞いたらええんちゃう?」
『好きってバレちゃうじゃん』


どうせあげんねやったらバレとってもええやんか、と思うたけど機嫌悪なられても困るから我慢。乙女心は複雑やな全く。

ロッカーからバッグを出して隣の岳人のロッカーに立て掛ける。そこで名前の方を向いたらようやっと目が合うた。


「‥なぁ、名前」
『な、なに』
「俺にはくれへんの?バレンタイン」


途端、名前の頬に紅が差す。口で何だかんだ言うても隠し切れてへんから見てて飽きひんねん。

名前の隣に腰掛けたったら、ホンの少しだけ距離を取りよった。めっちゃ意識しとるんバレバレ。それでも冷静な振りしよるからまた堪らん。


「俺、欲しいもんあんねん」
『何?参考にする』
「これ」


距離を縮めると、名前の体が余計に強張る。相変わらず顔は真っ赤やし何や涙目やし、誘っとるんちゃうやろかコイツ。

固まっとるのをええことに、名前のネクタイに手を伸ばして解く。あ、別にやましいことなんてこれっぽっちも思てへんからな今は、念のため。


『ちょ、え、何‥!』
「何もせぇへんからジッとしとき」


頭がついていかへんのか、俺の言葉に素直に従う名前。いつもそない素直やったら俺も苦労せぇへんねんけどな。せやけどそれも名前のええとこやから良しとしとこか。


「‥よっしゃ、これでええ」
『‥‥はい?』


ほどいたネクタイを名前の胸元で蝶々結び。我ながら綺麗に結べたわなんて満足しとったら、正気に戻った名前が不思議そうな顔でこっちを見とった。


『コレ、って‥』
「せやから、俺の欲しいもん」
『‥笑えないんだけど』
「まぁギャグちゃうからなぁ」


また名前の顔が赤く染まる。ここまで反応ええとおもろいわ。


「ほな、そーゆーことで?」
『ど、どーゆーこと!』
「バレンタイン楽しみやなぁ、名前」
『‥‥うん』










蝶々結び
(リボン結びとかベタだね)(男のロマンやろ)



―――

私をプレゼント!的な。


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