「な、なぁ名前」
『何やねん謙也』
「今月の14日、何の日か知っとるか?」


休み時間、3年2組の教室。うちの前の席に後ろ向きに座って、謙也がめっちゃキラキラした目でこっち見てくる。お前は待たされとる犬かいな。

そう言われて手帳のカレンダーを開く。今月の14日のとこには“バレンタインデー”の文字。うちが書いたんとちゃう、元々印刷されててん。


『ああ、チョコの日やな』
「別にクッキーでもええで」
『何やソレ、うちにくれ言うてんの?』
「そそそ、そーゆーつもりちゃうがな!」


そない顔真っ赤にして言うたかてちぃとも説得力あらへんっちゅうねん。ホンマ分っかりやすいやっちゃな謙也は。

蔵によれば、謙也はうちのこと好きらしい。まぁ自惚れとは言わんけど、謙也見てりゃ分かる。好きでもあらへん子に休み時間の度に話しかけにくる奴なんてそうそう居らんやろ?友達居らんなっても知らんで。


「名前、ほ、本命とか、居るんか」
『居ったらどないやねん』
「え!ホンマに居るん!?」


想定外やーとか一人でめっちゃ頭抱えとるけど、飛躍しすぎやろ。うちまだ居るとも居らんとも言うてへんのに。展開速過ぎてついていけんわ全く。

ちゅうか想定外とか失礼ちゃう?うちかて一人の乙女なんやから恋くらいするっちゅうねん。何でこないな奴なんて好きになってもうたんやろ、て奴にな。


『ホンマ、アホも大概にしぃや謙也』
「何やと名前!アホ言うな!」
『14日が何の日かくらい、うちかて分かっとるっちゅうねん』


こちとら好きそうなクッキーのレシピも可愛いラッピングも随分前から用意しとるっちゅう話や。謙也に言われんでも意識しとるんやで。乙女を甘く見んときや?

意味が分からんかったんかポカンと口を開けとる謙也の頭を、音楽の教科書で軽く叩く。あかん、そろそろ教室移動せな。


『まぁせいぜい楽しみにしとくんやな』
「お‥お、おん‥?」


まだよう分かっとらん謙也を置いて教室を出る。音楽室はこっから遠いから謙也はきっと遅刻。ざまあみろ。

それより14日、どないして渡そうか考えとかな。リアクションが楽しみやな。










始まりの合図
(名前、今のどーゆー意味やねん!)(‥て追い付くん速っ!)



―――

ちょっと意地悪なヒロイン。


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