「名字、これやるわ」


次の授業の用意して席についたら、机の上にペットボトルを置かれた。それは隣の席の忍足からのもの。


『何の冗談でしょう忍足くん』
「いや名字のタメを思てな」


隣の席からにっこりと笑う忍足。こんな顔で笑われたらファンの子はイチコロなんだと思う。だけど今は胸キュンとかそんなことはどうでもいい。

その理由は、目の前に置かれたペットボトルの正体にして脂肪の燃焼を助ける効果で評判の緑茶。


『喧嘩を売ってるのかな?コレは』
「あ、バレてもうた?」


侑士くん失敗やーとかその低い声で言われても全然可愛くない。というかむしろキモい。

大体、コレを忍足に置かれるような流れなんてなかったはず。私最近太ったんだ、とか相談した覚えはない。実際ちょっと気にはしてるけど、それを忍足に言ったつもりもない。


「俺も最近気付いてんけどな」
『なによ』
「お前、ブラから肉はみ出てんねん」


そう言ってニヤリと口許に笑みを浮かべる忍足に、何だか頭痛と目眩を感じる。

確かに夏は薄着だから色々透けちゃうかもしれない。でもだからって肉を指摘する必要なんてない、と思う。ましてや多感なお年頃の乙女に向かってなんて、言語道断も甚だしい!


『‥言いたいことはそれだけ?』
「あとはなぁ、」


それから忍足はあらゆる箇所を指摘してくれた。二の腕、太もも、お尻、お腹。何だかもう怒りを通り越して、自分が惨めになってくる。もう当分アイスは控えよう。


『もういいです、分かったからもうやめて』
「えー、もうええのん?」


まだまだ喋り足りないのか、忍足が口を尖らせる。こっちは十分ダメージ受けてるのに一体何が目的なんだ君は。

というか、何でそんなに私の体に詳しいわけ?なんか気持ち悪いんだけど。


「せやかて、しゃあないやん」
『‥席が隣だから?』
「それもあるけどな、好きやから目で追ってまうねん」
『好きって誰が』
「ここまで言うても気付かんのかいな」


やれやれ、と忍足が溜め息ついた。かと思ったらいきなり脇腹に手を回されて引き寄せられた。すっかり油断してたからお腹の肉引っ込めることも出来ずに、接近した忍足の顔にただ驚く。

何なのこの眼鏡。あんなに人の体にいちゃもん付けといて、どの口で告白なんか出来るのか。


「そのままでも抱き心地ええねんけどな、」
『いやあの離してください』
「やっぱ好きな女には綺麗でいてほしいやん?で、コレや」


忍足が指差したのはペットボトルの緑茶。意外に気持ちが込められてると思うと、ちょっと飲んでみようかなとか思えるから不思議。

さりげなく告白されたけど、返事は綺麗になってからにしようって心に決めた。










目指せ!!完全燃焼
(コラお腹揉むな)(やって触り心地ええねんもん)



―――

変態でこそ侑士くん


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