『あ、』


1時間目、英語の小テスト。抜き打ちっちゅうだけでもあり得へんのに、更にあり得へん事態が起きた。ペンケースに入っとるはずの消しゴムがどこにも見当たらへん。テストに必要あらへん色ペンはめっちゃ入っとるのに。

思わず大きい声が出てもうたんか、英語の先生が不思議そうな顔でこっち見とる。何もあらへんかったフリして答案に目を落とすけど、書き間違えて新しい英単語を生み出してもうた事実にただ焦る。


(と、とりあえず次の問題を‥?!)


書き間違えたことを表すために二重線、ダメ元やけど他に方法あらへんから苦肉の策。これで点数貰えたらラッキーっちゅうことで。

気を取り直して次の問題に取り掛かろう思た瞬間、突然目の前に小さい可愛いキャラクターがコロコロ転がってきた。この手触りは今、私が一番求めとる物によう似とる、っちゅうか確実にこれはそう。こない可愛い消しゴムに心当たりは一つしかあらへん。


『‥‥(これ使うてええの?)』
「‥‥(ええで、気張りや!)」
『‥‥(おおきに、謙也!)』


隣の席の謙也に目をやったら、先生に見つからへんように机の下で親指を立てとる。テスト中やから喋られへんけど、口の動きからして多分応援してくれとるみたい。

よう見たら、謙也はもうとっくに回答用紙を埋め終えて、今はシャーペンを手の上でくるくる回すのに夢中。ペン回しめっちゃ速いしスゴいなぁ。なんて、感心しとる場合ちゃう。借りた消しゴムと共に、慌ててテストに向き合うた。


『ホンマ助かった〜!謙也、ありがとうね』
「ええって、やって名前、何やめっちゃ焦っとったもんな」
『そら焦るわ!スペル書き間違えててんもん』
「ちなみにどこ間違えたん?」
『問一の(1)』
「初っ端からかいな!どんだけ焦ってんねん自分!」
『しゃあないやん!いきなし小テストする先生が悪いねん!」


小テストの終わりと一緒に、英語の時間も終わり。私の他愛もあらへん愚痴に、そらまぁそうやな、なんて同意してくれる謙也はホンマええやっちゃ。

忘れへんうちに、とテスト中に借りた消しゴムを差し出すも、謙也は一向に受け取る気配があらへん。それどころか、自分のペンケースを颯爽と片付けてもうて、私の手の中の消しゴムの帰る場所がなくなってもうた。


「それ、名前にやるわ」
『え、ホンマ?ええの?』
「ソレおんなじの持ってんねん、せやからやる」


制服の胸ポケットから謙也が出してみせたんは、私の手にある消しゴムと全くおんなじ消しゴム。何でそないとこにしまっとるんかはよう分からんけど、変わりもん消しゴムコレクターの謙也のことやからツッコまんとこ。

ホンマに貰ってええんか何遍も聞いたけど、しまいには「しつこいやっちゃなぁ」なんて呆れられる始末。せやかて、テスト中にピンチを救ってもろたばかりか、その消しゴムまで貰てまうなんて、何や悪い気ぃしてまうやんか。


「ええねん、そん代わり、」
『なに?後から返せ言うても聞かんけど』
「ちゃうわ!せっかく俺とお揃いなんやから失くすなや?失くしたらコイツが相方居らんーて泣くで」


自分の消しゴムを見せながら、なんてな、と笑てる謙也。ええ笑顔しながらも、ちょっとだけ頬っぺたが赤なってる気ぃするんは私の気のせいやろか。

そないなこと言われたら、失くされへんどころか一生使えへん気までしてくる。まぁ、少なくとも今日一日はお世話になるんやけど。


『ほな大事に使わしてもらいますー』
「おう、そうしてや」
『謙也とお揃い、やもんね』
「お、‥おう!」
『‥自分で言うといて照れんなや、アホ』
「てっ照れてへんし!」










おそろい
(‥あ、首もげた)(大事に使わんかい!)



ーーー

消しゴムってつい力入れちゃいますよね‥


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