「名前〜、ちょおこっち来てやー」
『はーい、ちょっと待ってー』


卒論の提出期限があと1ヶ月後と迫り、今日も今日とてパソコンと向かい合う。終着点はぼんやりとしか見えていないけれど、とりあえずは字数さえクリアできればこっちのものなので、ここのところはタイピングの腕前をひたすら鍛えている。

そんな中、リビングからの謙也の声に呼ばれる。その声は心なしか愉しげ、というか何か良からぬことを考えていそうな気がして、返事をしたはいいもののあまり足が向かない。


『どうしたの謙也、‥‥って何それ』
「じゃーん!俺たちから名前にプレゼントや!」
『いえ、お気持ちだけで』
「拒否するん早っ!けど受け取り辞退はできまへんで」


重い腰を上げてリビングに行ってみたら、今日はハロウィンやからな!とハイテンションな謙也の向こう側で、侑士が珍しくニコニコした顔でハンガーに掛けた服を手にしていた。いや、ニコニコというよりも、ニヤニヤの方が正しいかもしれないくらいで、これからの展開を想像して思わず背筋が震える。

その侑士の手元にある服というのが、謙也の言うプレゼントなのだろうけれど、それは明らかに普段着ではない。それどころか一般人はまず着る機会のなさそうな、婦人警官の制服をイメージした所謂コスプレ衣装というやつ。‥まぁ大層なご趣味をお持ちですこと。


「ケンヤと色々悩んでんけど、名前にはこれが一番似合う思てな」
『はぁ、それはどうも‥』
「サイズは適当やけど‥ま、名前なら大丈夫やろ」
『へぇ、そうですか‥』


ハンガーに掛けたままの衣装を私に当てがって、どこか満足そうに笑って頷く侑士。何だかもう乾いた笑いしか返せないけれど、大丈夫。私はまだこれをプレゼントされただけで、着るなんて一言も言っていない。受け取り辞退はできなくても、着用辞退はできる‥はず。


「っちゅーワケで、今日はこれからハロウィンパーティーや!」
「各自衣装に着替えてリビングに再集合やで」
『はぁ?!まだお昼なんだけど!』
「パーティーはいつやったってええねん、楽しんだモン勝ちやで〜」


思いもよらない謙也の一言に、自分の耳を疑う。確かに今日はハロウィンだけど、パーティーするなんて話は昨日までこれっぽっちも出てなかった。あまりに話題に上らなさすぎて、二人はハロウィンに興味がないとばかり思っていたくらい。

‥というか、今の侑士の言葉は聞き捨てならない。"各自"ということは、私だけでなく二人にもそれぞれ衣装があるということで。


『‥ちなみに、二人は何着るの?』
「それは着替えてからのお楽しみや、なぁユーシ?」
「せやな‥けど、名前が着替えてくれへんなら俺らも着替えられへんなぁ」


せっかく買うてんけどもったいないなぁ、なんてわざとらしく侑士が肩を竦める。そこまで言われると、こんなに盛り上がってる二人のテンションを、私が下げてしまうのは申し訳ない気持ちになってくるじゃない。

それに、侑士と謙也がどんな衣装を着るのかは非常に興味深いところ。スーツも浴衣も様になっていた二人だけに、何を着ても着こなしてしまうんだろうと思う。好奇心と羞恥心、どっちを取るか。


『‥‥分かった、着ればいいんでしょ着れば』
「さっすが名前、ほなコレ一式渡しとくな」
「ほな、楽しみにしとるで〜」


イケメンへの好奇心には、どうも敵わなかった。私の返答に至極満足そうな笑顔を見せて、侑士がハンガーにかかった衣装と小物類を手渡してくる。私が全て受け取ったのを見届けて、二人は軽い足取りで自室へと帰っていった。

リビングに残されたのは、私と、用意された衣装や小物類だけ。ここまできたら、とりあえずやるしかない。意を決して、自分の部屋へと入った。











(おぉ、めっちゃ似合うやん名前!)(うっわ‥想像以上やな)(‥もう着替えていいですか)



ーーー

二人が何を着たかは、ご想像にお任せ!


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