「あー!勉強しんどいわー」


今までぶんぶん回しとったシャーペンをテーブルにバンと置いて、わざとらしく盛大に伸びをかます謙也。まだ勉強始めて20分も経ってへんのに、集中力切れる速さまでスピードバカなんやろか。

今日は真面目にテスト勉強する日にしよ、て人を自分ちに誘うたんはどこのどいつやったっけ。


『謙也、ワーク何ページ終わったん?』
「え〜‥4ページ?」
『今日あと何ページやる予定なんやったっけ』
「‥‥‥16ページ」
『20分で4ページやから‥あと1時間20分で全部終わるやん、謙也ファイト!』
「えええ!そない集中力続かんっちゅーねん!」


そらそうやろな、20分で既に集中力切れとる謙也やから説得力しかあらへん。せやかて、曲がりなりにも受験生の大事な定期テストなんやから気合い入れなアカンと思うねん。謙也はスポーツ推薦も狙えるやろうから、本腰入らんかもしれへんけど。

当の謙也いうたら、マンガに出てくるみたいに鼻と上唇でシャーペンを挟んで不貞腐れとる。それ、何がしたいんか分からんポーズ第一位やで。


「‥あ、ええこと思いついた」
『なに?』
「先にワーク終わらした方が、遅かった方に一つお願い聞いてもらえる‥どや?」
『お願いって‥何させる気やねん』
「それは俺が勝ったらのお楽しみや、よーいドン!」
『えっ、ちょ、ズルい!』


私には少しの反論の機会も与えられへんまんま、めっちゃ横暴で一方的な競争が始まった。さっきまでグダグダしとったんと同じ人物とは思えへんくらい、超高速でシャーペンを動かす謙也。その原動力のスイッチに私がなれとると思たら、何や悪い気はせぇへんから不思議。

とは言うても、競争と名のつくもんに負けるんはええ気がせぇへんから、売られたケンカは喜んで買わせていただこか。こちとら得意科目の国語のワークやっとんねん、ナメんときや。


『はい終わったー、私の勝ちー』
「ええ?!ウソやん、名前ズルしたやろ!」
『するわけあらへんやん、何なら見る?』
「‥‥‥くっ、ホンマに終わっとるやんけ」


ガリガリ、とテーブルが削れてまいそうなくらいの力強さと速さでワークを解き続ける謙也の横で、これ見よがしにシャーペンを丁寧に置く。謙也はあと1ページ解けば終わるとこやったみたいやけど、勝負やからこればっかりはしゃあないっちゅーことで。私の終わらせたワークを見て、謙也が大層悔しそうな顔をしとる。ウケる。

ただ、あんまりにいきなりなスタートやったから、勝つことに集中しすぎて肝心のお願い事を考えるんを忘れとった。


『謙也にお願いかー、何がええかなぁ』
「あっ、金かかるんはアカンで!今月ピンチやねん」
『ちなみに、謙也は勝ったら何お願いするつもりやったん?』
「そ、それは‥ええから、早よ決めてぇや」


心なしか、謙也の頬っぺたが赤なったような気がするんは気のせいなんやろか。そこまで隠されるとむしろ気になる。いっそ敢えて負けといたら良かったかもしれへん。

謙也の部屋の中に、何かお願い事のヒントになるようなモンがあらへんかと、隅々まで見渡す。途中、ペットのイグアナと目が合うた気ぃしたけど、そこは触れたら怒られそうやからスルーで。


『‥あ、』
「お、何や、決まったか?」
『ほな、テスト終わるまでコレ貸して?』


手を伸ばして掴んだんは、綺麗に整理されたイグアナグッズスペースにあった手のひらサイズのぬいぐるみ。カラフルなデザインなそれは、何や派手好きな謙也みたいで可愛えから、テスト期間の勉強のお供に拝借したろ思て。

手の中でふにふにと、ぬいぐるみの感触を楽しんどったら、不意に取り上げられてもうた。もちろん犯人は目の前に居る謙也なんやけど、何や腑に落ちんっちゅう顔しとる。いや、どっちか言うたら不貞腐れとる、の方が合うてるかも。


「こんなん、お供にする必要あらへんやろ」
『へ?』
「コイツより、俺をお供にしたらええやん」


毎日一緒に勉強したるし、なんてあからさまに唇を尖らせて、謙也が言う。別にお供が居らんと勉強できひんわけちゃうねんけど、毎日謙也と勉強できるんやったら、もちろん嬉しい。その分一緒に居られるわけやし。

もしかして、もしかせぇへんでも、謙也はぬいぐるみにヤキモチ妬いてくれたんやろか。そない思たらちょっと、いや大分可愛くて、私の心臓がキュン、と鳴った気がした。


『ほな、これから毎日一緒にテスト勉強してくれる?』
「もちろん!何なら英語と数学は教えられるで」


ぬいぐるみよりスゴいやろ?得意げな笑顔でそう言う謙也やけど、ぬいぐるみより謙也の方がええんは当たり前のことで。こないして一緒に過ごせるなら、私としても願ったり叶ったりっちゅう話。

謙也が満足そうに、ぬいぐるみを元の場所に戻す様子を見とったら、我ながらええアイデアが浮かんだ。耳貸して、て言うたら、何も疑わんと耳を寄せてくれる謙也は優しいんやからホンマ。


『世界史のテスト、私より点取れたらさっきのお願い聞いたる』


さっき謙也が言おうとしとったお願い事が気になって、耳元でそっと囁いた。謙也は目を見開いて、ホンマか?と何度も何度も聞き返してきて。あんまりにも興奮しとるから、言わん方が良かったかも‥なんて少し後悔したのは秘密。

けど、その後の謙也の勉強のスピードがめっちゃ上がったんが見てておもろくて、動画撮っといたから勉強の息抜きに後で見よっと。










言い出しっぺの因果律
(たった1点差やと‥?)(危なかった‥ドンマイ謙也)



ーーー

謙也くんは勝負事に弱そう。笑


back

- ナノ -