「よっしゃ、ビーチバレーしよや!」
「ええで、無駄のないスパイク決めたるわ」
「ワイもやるでー!光もやろーや!」
「えー‥俺は審判でええわ」


遊び盛りの少年たちには、このあっつい陽射しも灼けつく砂浜もまるで効かへんみたい。元気に走り回っとってええことやけど、本業のテニスにだけは影響せぇへん程度にしといてほしいっちゅうのがマネージャーとしての本音。

我らが四天宝寺中男子テニス部の夏合宿は、毎年オサムちゃんが独断と偏見で選んだ合宿地で開催される。去年は高原の中やったから涼しゅうて良かってんけど、今年はまさかの海辺。ただひたすら暑いっちゅうねん。


「名前もアイツらと遊んできたらどや?」
『アホ言わんといてください、一瞬で灰になるわ』
「せやかてなぁ‥せっかく買うたんやろ?それ」
『‥センセー、セクハラで訴えますよ』
「おお堪忍堪忍、オサムちゃんは用事思い出したから消えるで〜」


オサムちゃん私物のパラソルの下から、陽射しの下の少年たちを遠巻きに眺める。もはや彼のトレードマークとも言える煙草を口元でふかしながら、両手で胸を表すジェスチャーを示してくるあたり、教師とは言うてもそこらへんのオッさんと変わらへん。

慌てて遠ざかるオサムちゃんの背中を見送って、ふと自分の胸元に視線を落とす。オサムちゃんの言う通り、今日の水着はこの合宿に向けて新調したモンで、色も形もお気に入り。まぁ、日焼けしたなくて結局上からパーカー着てもうてるから、あんま披露できてへんのが悲しいとこやけど。


「なぁなぁ!名前もやろうや、ビーチバレー!」
『えぇ!私は大丈夫やから、金ちゃんもっとやってきー』
「もしかして名前、バレー苦手なん?ほな海入ろうや!」
『あ〜‥うん、海ならええよ、行こか』
「よっしゃー!白石ぃ〜!名前海入るってー!」


バレーで既にだいぶ真っ赤っかに焼けとる金ちゃんが、私をパラソルの下から引きずり出そうと腕を引っ張る。大方、白石あたりに"私を誘うてこい"とか言われて来たんやろけど、それでも私の言葉に全力で一喜一憂してくれる金ちゃんはホンマ可愛え。

サンダルを履き直して、意を決して陽射しの下に飛び込む。ああ、もう焼けた。全身がこんがりしとる。日焼け止めなんて役に立ってへんくらい。あんまり暑うて辟易しとったら、私の顔を見て金ちゃんが楽しそうな顔で笑うた。


「ほら名前、早よおいでや!」
『待ってや、今行くって』
「遅いわ〜、ワイが海まで運んだろか?」
『運ぶって、え、ちょ、待っ‥!』
「名前軽いなぁ!よっしゃ行くでー!」


抵抗する間もあらへんうちに、気付いたら金ちゃんの肩に担がれとった。ホンマ文字通り運ばれとって、周りの視線がめっちゃ痛い。そらもう、このガンガン照りの陽射しに負けへんくらいに痛い。先に海に入っとる部員らはめっちゃウケとるみたいやけど、後で全員覚えときや。

波打ち際に到着して、やっと下ろしてもらえる‥と思うたんも束の間。金ちゃんは足を止めへんと、ザバザバと勢いよく海の中を進んでいく。いや、これはもう嫌な予感しかせぇへんやつや。次なる衝撃に構えるべく、思いっきり目を瞑る。


「名前、行っくで〜!」
『ひゃああああやめてぇえええ!!!』
「はっはっは〜!どや、気持ちええやろ?」


ようやく金ちゃんの足が止まったその瞬間、体が宙に浮いて、そんでそのまま海にド派手に着水。思うたより浅いとこやったんが救いやけど、おかげで頭から足先まで、全部びっしょびしょ。パーカーまで濡れてもうたやんか。

お礼にゲンコツの一発でも食わらしたろ思うて、諸悪の根源を見上げる。そしたら、当の本人がめっちゃ楽しそうに笑うとるから、ついこっちの怒る気も削がれてまうっちゅうモンで。


『も〜!金ちゃんのおかげでびしょびしょやんか!』
「せやかて、せっかく海来たっちゅうのに、入らんかったらもったいないやろ?」
『いや、まぁそうなんやけども!』
「それにワイ、名前と海で遊びたかってんもん!」


きっと、その言葉の裏には何の意味もあらへんのは分かっとる。分かってんねんけど、金ちゃんはどストレートに言葉を投げてくれるから、不意にキュンとしてもうたりする。同じ言葉言うたって、他の部員らやとこうはならへん。


『‥私の負けや、とことん遊ぼか!』
「よしきた!何する?何する?」
『え〜、とりあえず‥さっきのお返しや、そりゃ!』
「ぶっ!!‥やったな名前、お返しのお返しやで〜!」


金ちゃんの顔目掛けて思いっきし海水をかけたったら、その倍の水量で返ってくるから、金ちゃんは敵に回すモンやないことを知る。反撃の反撃のおかげで前髪が行方不明になってもうたから、ちょおタンマ。こういう時はちゃんと待っといてくれるから聞き分けのええ子や、金ちゃんは。

急いで前髪を直し終わって金ちゃんの方を向いたら、何だか目を真ん丸くしてこっちをじぃっと見とった。普段からお目々くりっくりしとるくせに、更に大きなっとる。そない真剣に見られると、なんか変なことでもしてもうたんか不安になるんやけど。


「‥名前、それ、」
『え、どれ?』
「その水着!可愛えなぁ、むっちゃ似合うとるわ!』


えへへ、とはにかみながら鼻の下を指で擦りながら笑う金ちゃん。その言葉には、言葉以上のどないな意味もあらへんねやろうけど、今、誰よりも欲しい言葉を、まさか金ちゃんがくれるなんて。嬉しいやら照れるやら、思わずつられてはにかんでまう。


『金ちゃん、ありがとうね』
「ん?何がや?」
『何でもあらへん!さっ、遊ぼ!』
「おーっ!ぎょうさん遊ぶで〜!」


私より少しだけ低い頭をぽんぽんと撫でたら、金ちゃんがよう分かってへんなりに嬉しそうに笑う。その笑顔がこの陽射しに負けへんくらいに眩しかったから、今日はもう日焼け覚悟で遊ぶしかあらへん。

せっかく金ちゃんが連れ出してくれた太陽の下、どうせ日に焼けるんやったら楽しんだモン勝ち。次は何して遊ぼうか、金ちゃん?


「おー何やあの二人、めっちゃ仲良えやん」
「何や白石、妬いとんのか?」
「部長も混ざってきたらええんちゃいます?」










たいようのおうさま
(ちょ‥一旦休憩しよ‥)(えぇ〜!まだ遊び足りひん!)



ーーー

金ちゃんは部内一男前説。


back

- ナノ -