流石に今日ばっかは、自分のものぐさ加減を恨む。帰り道のショートカットやからって、放課後の体育館裏なんてまぁベタなスポットを通ってもうたばっかりに、うっかりクラスメイトーー謙也の告白されとる現場に遭遇してまうなんて。

しかも結構な勢いで歩いてたから、そのシーンに気付いた時にはもうバッチリと謙也と目が合うてもうた。告白しとる子は丁度背中を向いてて私が見えてへんかった(と思う)のが救いっちゅうか、何ちゅうか。


『いや、何で追っかけてくんねんアホ!』
「そら自分が逃げるからやろ!」
『そっちが追っかけてくるから逃げんねんやろが!』
「ええから、ちょ、止まれて‥!」


そんで、今に至る。とりあえずその場を離れなアカン思て来た道を慌てて戻ったら、何や後ろから謙也がものごっつい勢いで走ってきよるから思わず反射的に走って逃げてまう。いや、その速さはさすがに怖いわ。

言うて一介の帰宅部の私が、全国区の運動部の謙也にスピードもスタミナも敵わんのは目に見えとる。校舎の角を曲がった先で、私の足がもつれかけたタイミングを見計ってスパートをかけた謙也に、あっさりと右手首を捕まえられてもうた。


「名字、ええ脚持っとるやんけ‥」
『そ‥、それほど、でも、あらへん、けど』
「ぷっ、息切れすぎやろ」
『や、やって謙也が、追っかけて、くるから‥!』


足を止めてやっと向き合うた謙也は、眉毛をハの字にして可笑しそうに笑うとる。帰宅部の体力の無さ、ナメたらアカンで。

‥っちゅうか、さっき告白されとった奴が今こないとこで油売っててええんやろか。さっきの子どないしてん、て聞いたら、ピンと来るまでに時間がかかっとった。いや、そこは覚えといたげて。


「さっきのはアレや、白石あてやで」
『へ?』
「自分で渡す勇気あらへん〜言うて、手紙預かってん」
『へ、へぇ‥そうなんや‥』


そない言うて謙也がポッケから出した白い封筒には、キレイな字で"白石くんへ"と書いてある。モテモテなクラスメイト兼部長を持つと大変なんやなぁ‥と思たんと同時に、謙也のお人好し度合いに心底驚いた。自分、そないなことまで請け負うんか。


「名字、絶対誤解しとる思て、慌てて追いかけたっちゅー話や」
『別に、私言いふらしたりせぇへんけど』
「そない心配してへん、ただ‥」


そこまで言うて、急に黙り込む謙也。何や次の言葉を探しとるみたいやけど、私の手を掴んどる謙也の手は少し温度が上がった気ぃする。


「‥よう考えたら、俺が勝手に焦っとっただけやわ」
『はぁ、さいですか‥』
「好きな奴に誤解されるん嫌やったから‥スマン」
『いえいえ、‥‥え、好き?』
「え?‥‥‥あ、」


聞き捨てならへん単語を私がうっかり拾うてしもた途端、謙也の顔がみるみるうちに赤く染まってく。人間、そないすぐ真っ赤になるもんなんや、っちゅうくらい。

不意打ちの告白まがいな謙也の発言に、確信も持てへんのに私の心臓は煩く高鳴る。アカン、私も謙也を笑えへんくらいに顔赤なっとるかも。


「あ〜‥ははっ、バレたらしゃあないな」
『え、‥‥私?』
「おう、俺、名字が好きやねん」
『あ、そう‥』
「‥え、そんだけ?」
『いや、ビックリして‥』


クラスメイトからの突然の告白、しかもこないなし崩し的なシチュエーションに臨機応変に対応できるほど、私は人生経験豊富とちゃう。せめて前置きするとか、もうちょい心の準備させてくれてたら、私かて上手く返せとったかもしれへんもんを。

照れたようにはにかんで笑う謙也を目の前に、いつの間にか解放されとった右手は力なくぶらりと垂れ下がるだけ。


「‥って、名字、いきなりスマンな」
『‥‥え?』
「急に言われたかて、そら混乱するよな‥スマン」
『え、あ、ううん‥大丈夫』
「別に、今すぐ何かどうしたいワケちゃうねん。ただ、俺の気持ち知っといてくれたら嬉しい」


ほな俺部活あるから、と片手を上げて颯爽と駆けていく後ろ姿は、私が知っとったクラスメイトの背中とは違うてキラキラして見えた。

明日になったら、私の気持ちも伝えてみよかな。放課後の体育館裏で。










どさくさまぎれ
(実は私も好きでした)



ーーー

本当は何かをどうしたい欲だらけだといい。


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