「何してん、名前」


帰り道、学校の近くの商店街で浪速のスピードスターに声かけられた。何を隠そうコイツはうちのクラスメイト兼想い人。


『謙也こそ部活どないしたん?』
「ああ今日はな、オサムちゃんが産気づいた言うて中止になってん」


誰の子なんやろとか謙也は言うとるけどまさかホンマに信じとるんちゃうやろな。純粋なんやなぁ‥なんて感心しとったら謙也が何か思い出した。あかん、嫌な予感がする。


「で、今何のガチャガチャしとったん?」
『あ、いや、何でもあらへん』


そう謙也に声かけられたんはうちが必死にガチャガチャ回しとるときやった。うちかて普段ならそないなモン興味ないねんでホンマ。せやけど今日はちょお小耳に挟んださかい試しにやっただけやねん。まさかそないなとこ謙也に見られるとか恥ずかしゅうてしゃあない。


「あ、これ俺欲しかったヤツや!」
『え、あ、そうなん?』
「なんや名前もコレ好きやったん?」
『ああ、うん、まぁな!』


謙也がこのガチャガチャの消しゴム欲しがっとったでって蔵が教えてくれた、なんて言えるわけないやんか。またそれ聞いてすぐ試しとるうちも単純なんやけど。

謙也はガチャガチャをまじまじと見つめて目ぇめっちゃ輝かせとる。おもろいもん出たら謙也にあげたろ思うてたんやけど、5回もやって出たんがショボいやつばっか。こんなんどないして使えっちゅうねん。


「ええなぁ、俺もやってみよかなー」
『あ、せやったらコレ全部あげるわ』
「え、ホンマか?ええのん?」
『ええねん、うちが欲しかったんコレやし』


そう言うて指差したんはガチャガチャに『レア!!』て書いてある消しゴム。いやホンマは別にいらんねんけど、謙也に消しゴムあげる口実。謙也はそれ見て「あ〜これはなかなか出ぇへんな」なんて評論家みたいなこと言いよる。


「よっしゃ名前、俺に任しとき!」
『え、謙也やるん?』
「浪速のスピードスターやで?パパっとレア出したるわ」


スピードスターかてガチャガチャ関係ないやろ?だいたいレアなんてホンマにこん中入っとるんか甚だ疑問。

せやけど、もしホンマに謙也がレア出したらちょお運命信じてもええかな?謙也がうちのためにやってくれるなんて、不覚にもキュンキュンしてもうた。


「ほな行くで!」


勢いよくレバーが回される。全部の動作がとにかく速くて瞬きする暇あらへんかった。コロンと出てきたカプセルは半透明で中身がよう見えん。

謙也がカプセルを開ける。前に屈んで開けよるから、うちからやと全然見えへん。何をそない焦らしてんねん、なんて少しだけイライラしとったら謙也がめっちゃ大きな声で「あ!!」て叫びよった。まさか。


『え、もしや‥!』
「‥‥外れてもうた」
『何やねんな、期待して損したわ』


謙也の手のひらには、ハートを半分にした形の消しゴム。レアもんやなかったけど、なんや見覚えある思うて自分の手ん中で握っとった消しゴム達を見た。

そん中に一つだけ、謙也のやつと似とるやつがあった。


『あ、け、謙也!見て!』
「なんや名前‥てソレもしや!」
『コレくっつくで!ほら!』
「ホンマや!めっちゃスゴいやん!」


謙也のとうちのがピッタリくっついて一つのハートの形になる。たかが消しゴムのくせにめっちゃロマンチックやん。レアもんよりこっちの方がよっぽど運命感じる。

一人で内心めっちゃ喜んどったら、謙也がなんやほっぺた真っ赤にしとる。照れとるんかな?めっちゃ可愛えねんけど!


「‥名前、」
『どないしたん?謙也』
「コレ、運命感じへん?」


どきりとした。謙也もおんなじこと考えとったなんて心ん中読まれたんかと思うた。あかん、うち今めっちゃ顔真っ赤になっとる。

え、おんなじこと?っちゅうことはつまり‥


「俺、名前のこと好きやねんけど、あの、その‥」
『謙也‥うちもあんたのこと好きや』
「え、ほ、ホンマか!?」
『ウソやったらガチャガチャなんてせぇへんわ』
「あ、あかん!めっちゃ嬉しい!」


正直今時消しゴムなんて、とか思うとったんは謙也には内緒にしとこ。消しゴムのおかげで結ばれたんやしな!










500円で始まる恋
(謙也、それ使うたらあかんで?)(当たり前やろ!愛がすり減ってまう!)



―――

別題:蔵ノ介の陰謀(笑)


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