騒朝



ぴぴぴぴぴぴぴ……カチ

ぴーぴーぴーぴーカチ

テレテレッテテーテレテカチ

ウォーーーーー…バタンッ!!!


「うるさいわよっ!!!」
「ぅげふ……っ??!」


早朝より鳴り響くのは部屋に置かれた複数の目覚まし時計だ。
鳴っては止め、鳴っては止め……それでも起きる気配のないこの部屋の主よりも先に隣の部屋の主が我慢出来ずに扉を蹴り破り入ってきた。そのままの勢いで未だ覚醒しない部屋の主の身体に見事なかかと落としが決まった。


「ったく!毎朝毎朝!!うるさいのよっ雅治!!」
「……うぷっ姉ちゃん……ごめ……おぇ」
「起きれないなら起きんなっ」
「無茶苦茶ぜよ……」


言うだけ言って満足した姉はすたすたと部屋を去っていき、残されたのは未だ痛みにプルプル体を震わせ丸まる仁王雅治のみだった。

しばらくしても引くことのない痛みに観念したようにのろのろと着替え始める、ちなみにこの一連のやり取りは朝練がある時は毎回しているもので、雅治を起こす真の目覚まし時計は姉であるとも言える。

あらかた支度が終わり1階にあるリビングへ行くと母親が自分のために朝食を用意してくれていた


「おはよう、まさくん」
「ん、おはよ…母さん」
「大丈夫?何だかすごい音がしてたけど」
「ん、いつもの事じゃけん」


食の細い雅治は食事をとることに結構な時間をさく。正直な所、朝から胃にものを入れること自体キツかったりするのだが、朝練に行く自分のためだけに、誰よりも早く起きて用意をしてくれている母の好意を無下にはできず、ゆっくりではあるが食べるようにしている。
母と学校のことや部活のことを話しながら朝食を食べ、終わる頃にはいい時間で今から部活に向かえば集合時間を過ぎるか過ぎないかの微妙なラインである。
しかし、自分のキャラ的には寧ろそれくらいがちょうど良いということも雅治はよく分かっているため別段急ぐこともなく家を出た。

詐欺師

その名はコート上のみならず私生活でも強く彼を印象付けている。掴みどころがなく飄々としている……それが現在の自分、仁王雅治なのだから。



結局朝練には多少遅刻したが何食わぬ顔で入れば咎めるものもおらず、滞りなく部活は終了した。

ヘトヘトになった身体を引きずりながら歩いていれば周りからはざわめく黄色い声が聞こえる

きゃー今日の仁王くんも気だるげな感じが色っぽくて素敵!
あのテニス部に2年生でレギュラー入りなんてやっぱりすごいわぁ
あーん遊ばれてもいいから付き合ってみたーい

どこからと聞こえるそんな言葉に雅治は薄ら笑いを浮かべる


(なんじゃ色っぽいって……気だるげなんじゃなくガチでだるいだけじゃっつーの、誰がおまんらみたいなビッチと付き合うか)


教室に入り窓側の一番後ろにある自分の席へ着くと今度は男共のざわめきが聞こえる

相変わらず仁王はすげーよなー、テニス部様〜ってか
毎日女と遊んでんだろ?1人くらい回してくんねーかな
そんなことより、転入生が来るってよ
まじ?女?男?
女だってさ!
マジかよ!よっしゃー!


(くだらんのぉ、転入生か……まぁ関係ないぜよ)


騒がしい教室、面白くもないクラスメート。普段と何も変わらない1日の始まりに雅治は心の中でため息を吐いたのだった。


(そーいや、また懐かしい夢を見たのー)


それはまだ雅治が神奈川へ来る前、小学校低学年の時だっただろうか。親が転勤族のせいで幼少から色々な土地に行っていた自分は行く先々の方言を吸収してしまい、気がつけば独特な喋り方をする子供だった。

子供というのは残酷で変な喋り方をする自分は、当時、内気で泣き虫な性格も相まって周りから笑われからかわれることが多かった。
そんな時、同じく転校してきた女の子と仲良くなった。その子は優しくて頭が良くて、変にませてギャーギャー言う女子なんかとは比べられないくらい大人っぽかった。
毎日のようにその子と遊んだ。周りから冷やかされることもあったが、その度にその子はくだらないと周りを説き伏せる、自分にとってヒーローのような子だった。

しかしお互い転勤族の親を持つもの、わずか1 年半でその子は別の学校へと転校していってしまったのだった。


「……ーちゃんと呼ばれます。ちゃん」


それは自分だけの彼女の呼び名だ。
また彼女にも自分は特別な呼び方を許していた。


(そー言えば……あだ名で呼ぶことが当たり前すぎて本名で呼んだことなかったきに……確か名前は)


「苗字名前です。よろしくお願いします」
「!!」


今まさに自分が思い浮かべていた名前に思考の海へ潜っていた雅治はゆっくりと教壇の方へ目を向けた。

そこには担任と1人の女子生徒がおり、黒板には確かに苗字名前と書かれている。

雅治はその光景に目を離せなかった。
記憶の中の少女よりもうんと大人っぽくなってはいるが、自分が見間違うはずもない

あの約束の日から忘れたことなど1度もない、女々しかろうが子供の頃の戯言だろうが、自分にとっては確かに今までの道を照らしてくれた約束。

確かにそこに立っていたのは自分が幼い頃に泣きながら見送った少女、ーちゃんと呼ばれます。ちゃんだった。




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