岳人くんと迷子ちゃん


くそくそくそ!侑士のやつ…っ

どん….…っ


「ぎゃっ?!」
「うお……っ?!」


向日 岳人はイライラを抑えきれず大股でずんずんと歩いていた。チームメイトでダブルスパートナーの忍足侑士と些細なことで喧嘩をしたからだ。
喧嘩と言っても岳人が一方的に怒っているだけなのだが、とにかく今は超不機嫌なのである。

勢いのまま部室を飛び出しできたがまっすぐ家に帰る気分でもなく何か気晴らしでもしようと駅の方へ続く道を曲がったところで誰かと盛大にぶつかった。
数歩よろけた岳人とは違って相手は尻餅をついて転がり、それに気づいた岳人は慌てて相手へ駆け寄った


「うわっわりーっ!!大丈夫かよ」
「いてて……んー大丈夫……はっ」
「まさかどっか怪我したか?!」
「お尻が二つに……割れてる……っ」
「なっ!!やべーっ!!え、きゅうきゅ……おい!ケツは元から割れてんだろ!!くそくそくそっ深刻な顔して言うから騙された!!」
「おー」


道端にぺたりと座り込んでいる少女は岳人の見事なノリツッコミに感嘆の声をあげパチパチパチと手を叩く。見たところ怪我もなさそうで岳人はほっと胸を撫で下ろし、ぶっきらぼうに手を差し出した


「とりあえず立てよ、座ってっと危ないだろ」
「あ、うんありがとう」
「いや、俺もぶつかって悪かったし」


差し出された手に素直に握り返した少女に、異性への免疫のない岳人は少しドギマギしつつ軽く引っ張り彼女を立たせる。
恥ずかしさから、握った手をさっと離しそのまま落ち着かない気持ちでを服で撫でつけた


「むー酷いなぁ、別にばっちくないよ?」
「へ?あっ、いやそーゆー理由じゃねぇって!!」


少女は岳人が手を拭ったのは自身の手が汚れていると認識されたと思い、不満げに頬を膨らませ相手を睨みつける。
しかし彼女自身のパッチリとした目のせいで怖さはなく、むしろ岳人をさらにドキドキさせているなんて本人は知る由もないだろう。しどろもどろになりつつ、別に汚いと思ってやったわけではない……と説明すると


「あ、そーなの?ならいいや」
「いいのかよ!」


先程まで膨らませていた頬を緩めふにゃふにゃと笑う。コロコロと変わる表情に岳人もつられて頬を緩める。


「そういえば何か怒ってなかった?ドスンドスンって足音してたよ」
「え、あーそれは……」


彼女の言葉に部室でのやり取りを思い出し再び眉間にしわを寄せる。その様子を見ていた少女はおもむろに岳人の方へ手を伸ばし、そう変わらない身長の彼の頭を突いた。
正確にはつむじをぎゅむーっと


「おりゃーっ」
「んな?!はっ?何すんだよっ」
「眉間がしわしわになってたから治すおまじない!」


ほら取れた!と自慢げに笑う彼女に、岳人はぽかんとマヌケな顔になるが確かに感じてたイライラはなくなっていて、少女の馬鹿げたおまじないについつい吹き出してしまう。


「なんだよそれ、面白いやつだなお前!」
「いやーそれほどでも〜」
「なぁ、名前なんて言うんだ?俺、向日岳人!岳人でいいぜ」
「岳人……くん?私は苗字だよ」
「苗字な!そーだ!俺、今からゲーセン行こうと思ってたんだけどよ、苗字も行かね?」
「ゲーセン?行く!!」
「よっしゃ!ンじゃ対戦しようぜ!」


俺結構強いんだぜ!と笑う岳人と、ゲーセン自体に思いを馳せる少女はワクワクしながら歩いていった


「そーいやお前は何してたんだよ?どっかいく途中だったとか?」
「んー本屋さん行ってみようと思ってたんだけどまた今度にする!」


少女の言葉に岳人は首をかしげる。

(あの方向に本屋なんてなくね?)

迷っていた苗字だった。




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