宍戸くんと迷子ちゃん
てくてくてく
きょろきょろ
てくてくてく てくてくてく
きょろきょろ
てくてく……
「なぁ」
「……!!」
それは、部活終わりの放課後のことだった。普段ならばダブルスパートナーである長太郎や幼馴染である2人と帰ることが多いのだが、今日は各々に用事があり1人で帰路についていた。
自分の数メートル先を歩く少女は、先程からきょろきょろと周りを見ながら歩いていて、それだけならまぁ、正直気にもとめなかったのだが
急に180度くるりと向きを変え、来た道を戻り
数歩進んだところでまたくるりと回り数歩進んでは周りをきょろきょろ見渡す。
明らかに迷子何なんだろうなぁ。と思ってしまったら、この宍戸亮と言う男は不器用だが根は優しく面倒見の良いやつだったりするわけで無視をするなんて激ダサだぜ!と目の前で不安そうに眉を八の字にしている少女に声をかけたのだった。
「お前どっか行きたいとこあるんだろ?俺この辺なら道わかるし、案内してやれると思うぜ」
「……」
「あー……迷子なんだよ、な……?」
「たぶん?」
反応のない少女に少しばかり不安になった宍戸だが、帰ってきた答えは曖昧でさらに不安になったのは言うまでもない。
「たぶんて、お前なぁ……とりあえずどこ行きたいんだ?」
「んーわかんない」
「は?」
「そっか……迷子、うん、迷子なんだよね」
これはヤバい奴に声をかけてしまったのでは……と訝しげに少女を見ているとその視線に気づいたのか少女はへらりと笑った
「私、苗字て言うんだー」
「あ?俺は宍戸……てなんだよいきなり」
「だって、コイツやばい見たいな顔してたから。私フツーだよーヤバクナイ」
「普通の人間が自分のことフツーて言うかよ……ますます怪しいわ」
「うへへ、確かに」
苗字と名乗る少女は、やはり怪しいというか、変な奴には変わりないらしい
「帰る場所は分かってるんだけど、目的地を決めてなかったから、どこ行けばいいか分からないんだよね」
それはいわゆる散歩と言うやつでは?と思ったがそれを指摘する前に苗字は宍戸の方へと近づいて来て
「そうだ、駅の方行ってみたいなぁ!」
「……行けばいいだろ」
「うん、行くよ。で、駅ってどこどろう?」
「はぁ?!」
「案内してくれるんでしょ?」
「はぁ……変なやつに声掛けちまったか?」
それでも案内すると最初に言ったのは自分だし、まぁ変なやつではあるが悪い奴ではなさそうだし……何よりそんな
信用しきったマヌケな笑顔を見ていたら断る気も起きず、宍戸は仕方ねぇな……と呟いて少女の歩幅に合わせるように歩き出すのだった。